NHKの「ひるまえほっと」内で、女優・作家である中江有里さんが紹介した本を掲載。
番組内のコメントや私のコメントを添えて掲載しています。
番組コーナー紹介文
月に一度のブックレビューです。案内人は女優で作家の中江有里さん。年間300冊の本を読む中江さんが、幅広いジャンルからご紹介。あなたも夢中になれる1冊に出会えますよ!
彼女たちの三島由紀夫:中央公論新社
中江さん:
没後50年。50年経ってもさらにいろんな関連本が刊行されている。私は「午後の曳航」が好きなんですけどね。それそれ、思い入れの作品があると思います。作家としてだけでなく、政治的な発言や衝撃的な亡くなり方、あのようなことが印象に残っている方が多いと思いますが、この本に登場する三島由紀夫さんは、非常に可愛らしいというか、チャーミングな部分が出ているんですね。それは「女性から見た」ということが大きいんじゃないかなと。作家論というより、三島由紀夫そのものの人柄とかを感じさせてくれるような。なかでも面白いのが対談。三島の素の部分、相手との関係が出ている。
(ここで当時恋愛関係と噂されていた越路吹雪との対談と、表紙になっている岸田今日子さんとの対談の一部を紹介、他、三島作品の書評や回想録なども)
中江さん:
三島の新たな魅力を感じさせてくれる一冊です。
■内容
三島由紀夫は女性(読者)に何を語ったのか――。
岸田今日子、高峰秀子、越路吹雪、宇野千代らとの全集未収録対談と、『婦人公論』発表の作品を中心に、女性誌を舞台にした三島の発言とエッセイを集成。同時代を生きた杉村春子、若尾文子、円地文子、湯浅あつ子ほかの貴重な回想に加え、石井遊佳、北村紗衣、酒井順子、ヤマザキマリによる新規エッセイを収録する。執筆者が全員女性による初の三島読本。【三島由紀夫没後50年記念企画】 ━Amazonより
伊勢物語 在原業平 恋と誠:高樹のぶ子
中江さん:
伊勢物語は業平が主人公されている歌物語。天皇の后に贈った歌、大胆なことをなさるなと。まぁ、もともと恋仲であったわけですけど、ここで詠んでしまう業平の大胆さと、歌の繊細さの対比になんとも物語があるなと思いました。
実は高樹のぶ子さん、「小説伊勢物語 業平」という本もあります。これだけでも伊勢物語の世界に触れられる。どっちを先に読んでも「なるほどな」となるかなと思います。
中江さん:
「みやび」って言うとね、日本人らしい美的感覚。業平の生き方とか対人関係を見て行くと「みやび」っていうものが見えてくると高樹さんはおっしゃっている。相手をとことん追い詰めない、短絡的に勝者と敗者を分けてしまわない。とても曖昧なんですよ。
結婚も通い婚だったりするけど、今は結婚制度がある。白黒はっきりつけると言うのがわりと主流。現代では「みやび」っていうものは見つかりにくい、失われていると言ってもいいいかも知れません。それがある種の息苦しさを呼んでいる。業平って雅の中で歌をうたって来たんですよ。複数の女性たちにね。そして相手の女性たちも複数を相手にしているってところに嫉妬心があるけど、想像力を掻き立てる。やはり「みやび」というものは力になっていたのかなと思うんです。
中江さん:
現代のしがらみから一歩離れるっていうことを、この本を通じて、、生き方も含めて、非常に興味深い一冊だなぁと感じました。
■内容
女が信じ、男が頼る人間力とは。平安の歌人・在原業平の一代記を日本で初めて小説化した作家が、政から遠ざかり「みやび」に生きた高貴な血筋の男の人間力を、数々の女性との恋や、男たちとの垣根を越えた交誼から解き明かしていく。━━━「BOOKデータベース」より
階段にパレット:東直子
中江さん:
歌人、小説家、今回表紙の絵も東さんが描かれた。この物語はなんとも瑞々しい。歌人である東さんはやはり言葉の感度が優れているなって思いました。難しい言葉は一切使われていないのに、ダイレクトに心に響く、洗われるような感じがしました。
(ここで作品のあらすじをざっくり紹介)
中江さん:
文章なんですけどものすごく絵の魅力が伝わって来る。なんかね、絵を描きたくなりました。技術があるわけじゃないけど、なんか絵を描きたいなぁって思いにもなったし...。ストーリーはそんなに大きくうねるわけではないんだけど、淡々とした中にものすごく心を純粋にさせてくれると言うか、絵を描くようにね、絵を描いている自分の中からいろんなものを切り離していく。これも一種のリセットかなっていう風に思いました。
■内容
下町の路地にぽつりと置かれた立て看板。実弥子が古い民家を借りて開いた絵画教室「アトリエ・キーチ」は、いつしか、さまざまな人びとが集う場所になっていく。一緒に絵を描くというささやかな時間は、人の心に何をもたらすのだろう―。━━━「BOOKデータベース」より
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<感想>
年内最後のブックレビューでした。今回の三冊は「リセット」を一つのキーワードとしているそうです。今年はコロナで静かな年末を過ごすことになる。中江さんのおっしゃるように色々あった今年の節目にリセットできる本として、今回の3冊はなにかしら心に響いて来るのではないかなぁと感じました。
今年は中江さんご自身も大変な1年だったと思います。そのことを何も語らずでしたが...。いつも本の魅力を淡々と語ってくださりありがとうございます。来年もたくさんの良書に出合わせてくださいね!
【過去のブックレビュー】