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【レビュー】サムのこと 猿に会う: 西加奈子

 

 

 サムのこと 猿に会う: 西加奈子著の感想です。

サムのこと 猿に会う (小学館文庫)

サムのこと 猿に会う (小学館文庫)

 

 

ありふれたシチュエーションの中に潜む細やかな笑いが何度も押し寄せる

 

ひさしぶりの西さんの小説。タイトルから一つの話だと思っていたら、「サムのこと」「猿に会う」は別々の小説。そしてもう一つ「泣く女」。ということで、3つの短編集です。

 

どの話もごくごく日常、ありふれたシチュエーション。なのに、会話の面白さでここまで描けちゃうのがやはり西さんの腕なんだなーと、強く感じる。是非これらに注目して読んで欲しい。淡々とした会話の中にちょっとしたお笑いのスパイスが潜んでいるような箇所がそこかしこに散らばっている。とにかく会話によって徐々に浮かび上がって来る登場人物たちの個性豊かなキャラクターがたまらずに魅力的。何度もクスクスと笑いながらも、どうしたらこんな風に表現できるのだろうか?と感心。

 

「サムのこと」は仲間の通夜に行く20代の男女5人の話。友人の死を悼む席での会話から、それぞれのキャラが楽しめる。お通夜の席なので、登場する人々もみんな沈んではいるんだけど、何故か面白い。

 

「猿に会う」は、20代半ばのちょっと端っこを生きる三人の仲良し女子の話。日常+女子旅という普通の設定なんだけど、なんか面白い。こちらも3人のそれぞれの個性が存分に楽しめる。私的には「さつきちゃん」がツボ。本作が一番クスクス度が高かったのと、静かに起こる事件の意外性なども含め楽しめた。

 

 

 

「泣く女」、こちらは男子二人旅。太宰好きの男子が、太宰ゆかりの地を訪れる。この話、途中まで面白可笑しく読んでいたんだけど、読み終わった時に、なんかジーンと来ちゃって、ちょっと泣けた。

 

学生時代ずっと同じ景色を見て、同じ歩調で歩いていた友。でも、いつかそれぞれの道に.....って時期が来ることは誰もが知っている。その瞬間がこの物語には描かれている。あの時に味わうなんともいえない切なくて淋しい気持ちみたいなものが蘇ってしまい、私自身が「泣く女」になってしまったではないか(笑)いいね、大げさでなく、こういう静かな青春のひとコマを描いた作品って。

 

ということで、小さな3つの話でしたが、笑ったり、泣いたり、思い出したり、感心させられたりと、感情があちこち旅をしましたが、やっぱり西加奈子さんの面白さは短編でも変わりない。まるで止められないポテチを食べているような文章なんだなぁ。すでに次の作品を欲する気持ちが抑えられません!