中央公論特別編集-彼女たちの三島由紀夫のレビューです。
三島由紀夫はあの時代に女たちと何を語ったのか
三島由紀夫と言えばどんな姿を思い浮かべますか?「三島由紀夫」と画像検索をしてみると、あの演説の写真をはじめ、ムキムキな筋肉を見せつけるかのごとく肉体を晒しているものが多い。なんというか「男臭」が漂って来そうなものばかりである。
そんなイメージが強い三島氏。本書の表紙はどうだろう。ちょっと紳士な感じで、柔和な表情がいつもと違う。これも三島由紀夫なんですね。私は当時の演説から割腹自殺にいたる事件を詳しく知らない世代なので、どちらかと言うと三島氏本人より「三島文学」の方に馴染みがあった。なので三島氏のイメージはどちらかと言うと本書の表紙の人に近い。恐らくいろんな表情がある人物なのだろう。
本書はそんな三島氏のエッセイや対談、インタビューなどをまとめたもので、貴重な写真とともに掲載。まずは内容説明をご覧ください。
岸田今日子、高峰秀子、越路吹雪、宇野千代らとの全集未収録対談と、『婦人公論』発表の作品を中心に、女性誌を舞台にした三島の発言とエッセイを集成。同時代を生きた杉村春子、若尾文子、円地文子、湯浅あつ子ほかの貴重な回想に加え、石井遊佳、北村紗衣、酒井順子、ヤマザキマリによる新規エッセイを収録する。執筆者が全員女性による初の三島読本。【三島由紀夫没後50年記念企画】
登場する女性たちの豪華なこと!彼女たちが三島氏とどんな話をしたのか注目です。会話の中から窺える三島氏の結婚観や死生感など興味深いものがある。私は吉村真理さんや、岸田今日子さんとの対談、有吉佐和子さんとの対談が楽しかったかな。あと鏡子の家」のモデルになった湯浅あつ子さんとの話も。モデルが居たとは知りませんでした。これはもう一度読み直したい。
「男女差別、区別」的な、今だったら相当叩かれそうな発言も多くみられる。「うるさい、黙れ、由紀夫!」と思わず言いたくなったりする話もあったけど、こういう発言が普通に許されていた時代でもあったのだなぁと、ある意味しみじみさせられた。そして、そういう発言を泳がせ、サラリと交わす女性たちのしなやかさも読みごたえがある。
あと何といっても結婚式の写真は印象的です。ずっと独身でいるのかと思いきや、サッと結婚した三島氏。なんて穏やかで良い笑顔なのだろう。こんな表情の三島氏を見たのははじめてです。本書で三島氏の印象が変わったとすれば、様々な発言云々より、これらの表情を見せた写真の三島由紀夫です。こんな顔もあるんだなぁ。とても幸せそうだ。
ということで、色々な角度から三島由紀夫を見られた一冊。あぁ、もう少し彼には小説を残して欲しかったなぁ。いつだったか、何かの作品の「あとがき」を三島氏が書いていたのだけど、鋭い観察力と文章だなぁと思ったことがあった。その作品の作者には悪いが、本体より三島氏の「あとがき」の方が読みごたえがあったという。こんな風に読めて、書けるその才能が消えてしまったことは本当に惜しまれる。...なんてことまで思い出しました。
久々に読んでみようかな。未読作品はまだまだあるはず。