信仰:村田沙耶香著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ (ネタバレなし)
や、ほんと本作も淡々としたストーリーのなかに、ものすごいエネルギーを感じる一冊でした。短編集なので、話が変われば少しは一息つけるかな?なんて思ってたけど、来るもの来るもの、受け取らずにはいられない凄さがあるものだから逃げられません(笑)
まずは、各話に登場した、ガツンとやられた一文を引用してみます。
<信仰>
「なあ、永岡、俺と、新しいカルト始めない?」
<生存>
生存率アドバイザーは深刻な顔でパソコンのプリンターから出て来たデータをめくり、溜息をついた。
<土脉潤起>
姉が急に、「私は野生に返る」と言って家を出てから、三年が経った。
<彼らの惑星へ帰っていくこと>
私が「イマジナリー宇宙人」と出会ったのは、このころだった。
<カルチャーショック>
この世界には、「均一」と「カルチャーショック」の二つしか街がない。
<書かなかった小説>
クローン家電のことはよくわからないので、あれこれ相談した。
<最後の展覧会>
「ヒュポーポロラヒュン」「ゲージュ」 私は一億年旅をして、二つの星でこの言葉を見つけました。
たくさんの疑問符が頭の中に浮かびませんでしたか?生存率アドバイザーってなんだよ?野生に返るって一体?クローン家電ってなんやねん?―――これなんです、どの話も冒頭から「え?」が止まらない。しかも奇妙なことをサラ~っと、当然のことように書かれているから、こちらもサラ~っと読んでしまうのですが、「いや、いや、いや、訳わからんぞ」と、また読み返すみたいな(笑)とにかく掴みがスゴイ。読まずにはいられないものを冒頭から投げ込んで来る。
私なんぞは「信仰」で連呼された「ロンババロンティック」ってお皿、本当にあるのかと思って思わず検索しちゃいましたよ。物語だと解っていも罠にはまってしまう感じも村田さんの作品ならでは。
様々な現代社会の問題が潜んだ作品たち。今ある問題も、ちゃんとしておかないと数十年後にはこんな地球になってしまってもおかしくないよ....と思わされるものもあり、ちょっと背筋が寒くなる。
『気持ちよさという罪』は、村田さんご自身のことが綴られている。「多様性」や「個性」についてだが、これはぜひ一読していただきたい話。おそらく多様性については、ずっと村田さんが書き続けるであろう大きなテーマなんじゃないかと私は感じています。
(本文より)
とにかくどれも短い話のなかに、読者がそれぞれに思うことがたくさん出て来る内容だと思った。ちょっと突飛な感じもするけれども、笑えない怖さが潜んでいる。そして、村田さんが作品を通して何を伝えたいのか?ものすごく考える一冊になると思います。冒頭に書いた引用文の中に、ひとつでも気になるものがあったら、絶対一読をおすすめします。
村田沙耶香プロフィール
1979年、千葉県生まれ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。2003年、『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。2009年、『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年、『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞、2016年、『コンビニ人間』で芥川賞受賞。同作は累計発行部数100万部を突破した。その他の著書に『マウス』『星が吸う水』『タダイマトビラ』『地球星人』『殺人出産』『消滅世界』『生命式』などがある。(Amazonより)
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村田さんが描く未来!?やっぱり背筋がちょっと寒くなる。作品を書くきっかけは、あくまでも身近なことからみたいだけど、作品にするとその広がりがすごくなる。