だいたい本当の奇妙な話:嶺里俊介著のレビューです。
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感想・あらすじ
ホラーや怪談など、作られた怖さみたいな本はたくさん読んできたけど、私的に怖いなぁって感じるのは、「どっちなの?」的なものだと思っている。「どっちなの?」とは、本当のことなの?これって怪奇現象なの?と、真実がわからないまま消えていくような話。
こういうのって、自分が遭遇する確率は全くのゼロではないわけで、だからこそ想像すると怖い。もちろん「信じるも信じないもあなた次第」ってことで、バカらしいって思う人には、なんも響かない話なんですけどね。
本書は強烈に怖いわけではないけど、たぶんそうなのだろうって思わせる短編が綴られる。一応、小説という形を取っているが、恐らく主人公は著者で、ご本人が体験した話だろう。その証拠になるとも言える写真が掲載されていたりする。写真は話の最後に登場するものだから、「ひぃ!」っと思わず声が出る。この手法?確か工藤美代子さんの本もそうだったけど、本当にゾクゾクするんですよ。パターンが分かると、話の最後あたりはどんな写真がでてくるのか...と落ち着かない。
今回一番印象的だったのは、「ざしきわらしの足音」話かな。座敷わらしが出るという東北の宿が舞台ですが、もう語り尽くされている感はあるなぁーと。しかし、これは座敷わらしそのものより、その後に起きた出来ごとの方がすごかった。もちろん、この宿で、作者は座敷わらしらしきものに会えたからなのでしょう。
初めて知りましたが、座敷わらしも場所(二戸と遠野)によっては、いいことばかりを運んできてくれるわけではなさそうです。作者は良いことが起きたわけですが、そのあたりは知ってないと怖いですねぇ。
もう一つ印象的だったのは「経る時」という話。こちらは急速に老化が進んでいく難病「ウエルナ―症候群」に罹った友人の話なのですが、とにかく切なかった。最後の写真は、彼が書き残した「言葉」が掲載されている。社名の入った紙にしっかりした字で書かれた文字が目に焼き付く。これは多分、作者の実話だと、嶺里さんのプロフィールを見て確信。
余談ですが「経る時」は「ふるとき」と読むのですが、これは松任谷由実の歌のタイトルでもあります。この歌詞の景色と本書の話を重ね合わせると全く違和感がなく....。きっと作者さん、この歌をご存じだったのだろうなぁと感じました。
「異色ホラー小説」ということらしいのですが、私的には小説を読んでいる感じではなく、やはり体験談のように感じた。タイトルの「だいたい本当の」っていうのは、かなりそうなんだと思う。多少盛ったりしながら綴ったのだろう。正直な作者のお人柄をちょっと感じました(笑)
嶺里俊介プロフィール
1964年、東京都生まれ。学習院大学法学部法学科卒業。NTT(現NTT東日本)入社。退社後、執筆活動に入る。2015年、『星宿る虫』で第19回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、翌16年にデビュー。その他の著書に『走馬灯症候群』『地棲魚』『地霊都市 東京第24特別区』『霊能者たち』などがある。(Amazonより)
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随分前に読んだ本ですが、いまだ人気がありますね。工藤さん初読みだったので、かなり怖い思いをしました!