変半身:村田紗耶香著のレビューです。
感想・あらすじ なんかほんとスゴイかも!?村田作品の凄みがじわじわと解りはじめる
西加奈子さんが嫉妬する作家のひとりとして名前を挙げたのが、確か、村田紗耶香さんだったなぁということを読みながら思い出す。そこからオードリーの若林さんの本で、村田さんが語っていたことなども思い出され、「あぁ、なるほど、確かに村田さん、底知れぬ怖さを秘めているなぁ」と、ぞわぞわ。
西加奈子さんの小説家的なセンスにいつも驚かされるわたしにとって、その西さんが嫉妬するほどの作家って?ご謙遜でしょう、なんて思っていましたが、やはや、ここにきてその意味がうっすら解ってきました。
西さんの小説はガッツリその才能が見えるものだけれども、村田さんはじわじわ忍び寄る、浸蝕されていくような気配をもってその才能を見せつけて来る。そこが怖い。
ということで、本作で村田作品を読むのは3作品目。「ようやく正体を現したな!」的な納得の作品です。
前置きが長くなりましたが、舞台は太平洋に浮かぶ離島・千久世島。島によくある昔からの因習とともに暮らす島人たち。ここでは年に一度、秘祭「モドリ」が行われている。モドリは14歳になると参加できるようになる。若者が性的供物として捧げられるという奇祭。誰もがそういうものだと信じてこの島で育つわけだが、こうしたものが、一掃される。島で行われていたことなどが意図的に消され、島民は方言さえも変え、新しい方言を使って生活をしている。
例えば、昔住んでいた場所が、全く違った風習になったり、聞いたことのない言葉を使っていたりしたら、どうなるのだろう?困惑の渦に飲み込まれ、一体自分はどんな世界に居るのか、今まではなんだったのか?と、何とも言えない複雑な気持ちと、足元が一気にぐらつくような不安定な場所に立たされているような気になるのではないだろうか。
伝統を守り抜く話は結構あるけれど、伝統を一掃してしまうような話はあまりないんじゃないかな。この話では否定的だった風習等がごっそりなくなってしまった時、人はどうなるのだろうという部分が上手く描かれている。島民でもない私まで違和感をたっぷり味わうことになりましたが、とにもかくにも、またひとつ新しい「島の話」が生まれたなぁと。
本書はもう一つ「満潮」という短編もあります。これねぇ・・・もう、ほんと、村田さんしか書けない作品だと思います。
夢精をした妻。「潮噴き」してみたいと言う夫。
夫はお風呂にこもって潮噴きの練習をするようになり、やがて、妻も練習をし出すという話です。「なんじゃそれ?」って感じですが、これが作品としてちゃんと成立しているんですよ。なにがどうってわけではないんですが、やけにジワジワ来ると言うか・・・・。もうこの設定を考えている時点で村田さんって何者?って感じですよね。
ということで、レビューが書きにくいったら(笑)
奇奇奇奇、変変変変、のなかに、ちょっと笑ってしまうみたいな雰囲気かなぁー。
今村夏子さんの不穏な空気感と村田紗耶香さんの奇奇奇奇、変変変変。どこか繋がりがあるような、ないような。今年は二人から目が離せなくなりそうな予感です。とにかく今回は、村田紗耶香さんの恐ろしい一面を覗いた気がしました。