消滅世界:村田沙耶香著のレビューです。
感想・あらすじ 今当たり前だと思っていることも変わってしまうことも・・・
窪美澄さんの「アカガミ」を読んでいたころ、村田さんも似たような世界を作品にしていると耳にして、読み比べてみたいなーと思っていた一冊。
あの時もそうだったけど、このどこか無機質で冷たいものをずっと纏いながら読んでいたという感覚がこちらの小説にもあり、話が進めば進むほど心が煤けていく。
人を好きになり恋愛し、結婚して子供が出来、家族を作る。私たちが長い間営んできた一連の流れが、本作ではすでに「古いこと」として扱われる。
ここでは人工授精で子供を産み、夫婦間のセックスは、近親相姦とタブーとされている。夫婦という形態を取ってはいても、セックスはなし。恋愛は別の人と、しかも夫婦公認というねじれた夫婦関係だ。
主人公の雨音も結婚はしているが、夫は夫婦というより、仲の良い兄弟と言った関係で、お互いのことを思い合いよき理解者として存在している。
このあたりの関係性にどうしょうもない違和感を持ちつつも何だろう、実際この先あるのではないかな?なんてぼんやりと思わされてしまう。
また、生まれてくる子供は「子供ちゃん」と呼ばれ、みんなの子供として育てられる。子供たちにとって大人はみんな「お母さん」なのである。公園に行けばそんな「子供ちゃん」と触れ合い、大人は子供の世話をする。その姿は、まるで「猫カフェ」などで見られる光景のようでちょっと不気味だ。
そして、男性も人工子宮により妊娠、出産をすることになる世界。
男性の出産シーンという強烈な場面も私たちは目にします。
何故にこんな世界を描くことになったのか?
読後に村田さんのインタビューを読んでみた。
「身近な友達にも夫婦として愛し合ってはいるけれど、セックスはしたくないという人はいる。それを周りから変だ、とみられて我慢してもいる。そうやって苦しむ人がもっと楽に生きられる世界を想像してみたかった」
ここが出発点として、ここまで話を広げた村田さんの力量はスゴイ。
今、当たり前だと思っていることも、数十年、数百年経てばすっかり変わってしまっていることもある。
村田さんは言う
水道水を飲んでいた時代から、今はミネラルウオーターしか飲まない人も多い。
本作は水の話と同様、そういう些細なことがあっという間に変化することも多々あるということを知らせている。
しかし、しかし!
生きることそのものの本能や営みが消えるのか?
そんなことが実際起きる日が来るのか?
「恋愛はめんどくさい」と本気で言っている若者たちの言葉がリフレイン。私たちは古いスタイルで生まれて来た子供なんだといわれる日も・・・。この本を読むとあり得るのかも?とちょっと背筋が寒くなるのだった。
文庫版