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【レビュー・感想・あらすじ】記憶の歳時記:村山由佳

 

 

記憶の歳時記:村山由佳著のレビューです。

☞読書ポイント 

今が落ち着いて幸せだからこそ語れることがある。過去の記憶を掘り起こすことによっていろいろ削ぎ落とされ、新たな感情が見えて来る。村山さんの人生の棚卸しとも言える一冊。これまで語られなかった知られざる村山さんの素の姿が見られます。

 

感想

記憶の歳時記 (ホーム社)

記憶の歳時記 (ホーム社)

 

四季折々の軽井沢での生活を綴ったエッセイ集だろうと思って気軽に読み始めたのですが、これがまた、結構な深いところまで赤裸々に書かれていたものだから、ちょっとびっくりです。もちろん、背の君(村山さんの旦那さん)や、たくさんのネコちゃんの話も含め、ほっこりした内容もあるのですがね。

 

「人生の棚卸し」的な本は、昨年山田詠美さんの本で「おお!」となったのですが、今回も同じく「おお!」となる内容でした。

 

村山さんのことは、これまで作品やTwitterを通じてなんとな知っていた。節目節目、村山さんはご自身のことをあまり隠したりせずファンに発信される作家さん。なにより恋愛に関してはご自身の心境がかなり作品に反映されているものが多く、長年読んでいると、村山さんの「現在の恋愛」が解って来る。

 

でもそれはあくまでも読者の勝手な解釈もあるわけで実際のところは....と思っていたけど、そんな謎が解けるような内容がこの本にはあった。最初の旦那さん、2番目の旦那さんについて結構なとこまで書いてあるので、「あーそういうことだったのか」と。特に2番目の旦那さんの借金については、本当に苦労されてきたのだなぁと。でも、こうしてすべてを晒け出して書いてしまえるほど、村山さんにとってはすでに過去のことになったんだと感じます。

 

 

 

 

折り合いの悪かったお母様とのこともそう。どうしてそうなったのか、なかなか見えて来なかったのですが、今回は過去の出来事を含め、どんな親子関係だったのか、包み隠さず書かれています。胸につかえていることを吐き出したとでも言おうか、それはまさに「棚卸し」であり、村山さんの手でひとつひとつ綺麗に包んで「終う」ように見えました。にしても、母と娘の関係って本当に色々なんだなぁ。

 

そして現在、おそらくここ数年、背の君という村山さんにとって最強の理解者が現れたことがかなり大きかったのでしょう。無理せず呼吸のできるお相手の存在が、穏やかな今の生活から窺えます。いとこが夫になるってどんな感じなのかな?って思ったけど、お祖母ちゃんが一緒とか、家庭の味とかも似ているみたいだし、幼少期の思い出も共有できたり、それこそ嫁姑問題も少なそう~。結構快適かもですね。

 

 

デビューして30年。文学賞もたくさん受賞している作家であるにも関わらず、自分の才能を信じられず「作家っぽく擬態しているに過ぎない」と自身を苦しめて来た村山さん。しかし、転機が訪れたのは伊藤野枝の評伝小説「風よ あらしよ」で、ようやく自分の作品を心の底から誇りに思えたと言う。

 

 

 

 

信じられる背の君の愛情を手に入れ、書くことにも自信をつけた村山さん。しかしそんな彼女に、長い付き合いの担当編集者たちは言う。

 

「でも、これが最後の恋愛とは限りませんよね?」と焚きつけるようなことを言う。

 

これを言ってしまえる編集者さんたち、凄いですよね。読者のわたしも少なからずそう思っている。....なんて言うと怒られそうですが、ハラハラ・イライラする恋愛小説をこれからも書いて欲しいのです(笑)

 

とにもかくにもこの一冊で村山さんの輪郭がくっきりした感じがしました。人生後半戦、こうして少しずつ溜まったものをそぎ落としたり、必要なものは肉付けしながら、ゆるやかに坂道をおりていく。こうして人は年を取っていくものなのかな....と、我が身も振り返りながら読了です。

 

村山由佳プロフィール

1964(昭和39)年、東京都生れ。立教大学卒。1993(平成5)年『天使の卵―エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞を受賞した。他の著書に、『アダルト・エデュケーション』『放蕩記』『天翔る』『天使の柩』『ありふれた愛じゃない』『ワンダフル・ワールド』『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』『嘘 Love Lies』『ミルク・アンド・ハニー』『燃える波』『風よあらしよ』『雪のなまえ』など。(新潮社・著者プロフィールより)

村山さんがようやく自分の作品に誇りが持てるようになったとおっしゃる一冊。本当、身を削りながら書かれていたのが解ります。大作!

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