風よ あらしよ : 村山由佳著のレビューです。
第55回吉川英治文学賞を受賞!大作です!
伊藤野枝。この名前を目にするたびに、あの白黒でザラっとした粗い画質の写真と、いつもどこかをまっすぐ見つめている彼女の表情を思い出す。
伊藤野枝関連の本は瀬戸内晴美氏の「美は乱調にあり」と、栗原康氏の「村に火をつけ、白痴になれ」を読み、大杉栄を含め、下地になるほどの知識はすでにわたしにもあった。しかしまぁ、何冊読んでも伊藤野枝という女性は見どころが多く惹き込まれるし、何冊読んでもまるで初めて読んだかのような気分にさせられる。常にハラハラ、ドキドキさせられ目が離せない。わたしの中での彼女は、決して色褪せることなく、ページを開けばいつでも新鮮な驚きを運んでくる人なのだ。
そして、野枝の人生があまりにもいろいろ詰まり過ぎているので、ついつい中年以降の女性をイメージして読んでしまうのだが、亡くなるシーンに来ると、彼女のあまりに短い人生にいつもハッとさせられる。そうだった、野枝はまだ28歳だったんだと。
656頁の大作。今年一番の分厚い本です。通常何冊か並行して読書しているわたしですが、今回は来る日も来る日もこの本一冊だけに気持ちを集中させて読みました。
本を開くとそこには野枝の強いエネルギーと疾走感がページの隅々まで駆け巡る。生い立ち、結婚、不倫、出産、青鞜社、日蔭茶屋事件、そして甘粕事件。どこをとっても「壮絶」なものが常に野枝にまとわりつく。
村山さんの作品だけあって大変読みやすく、会話なども現代風に描かれているので、リアルに頭に入って来る。馴れ親しんだ作家さんの文章で読めるありがたさを、しみじみと噛みしめました。
それと、村山さんがこの作品と向き合っていた濃厚な時間をTwitterを通じて少し知っていたので、そのことも感じながら読んでいました。
伊藤野枝という人物を知るための読書は、気力がとても消耗する。読むだけでこうなのだから、それを書くという作業はいか程のものか。どれだけの資料を読み込み、野枝たちの圧倒的なエネルギーと向き合うためにどれだけの精神力を要したことか。伊藤野枝という人物に挑んだ村山さん、きっと私たちの想像を超える何かを感じながら日々執筆されていたんだろうな。
こういう女性が日本にいたことを、こんな事件があり、こんな無残な最期だった人物がいたことを、是非本書を読んで多くの人々に知ってもらえるといいなぁと思えた作品でした。
しかし分厚い本だなぁー。5日間この本にかかり切りだったけど、読み終えてしまうとその厚みもなんのその。厚みのわりにあっという間の時間だったと思えます。
またいつか村山さんのこういう作品を読んでみたいです。いよいよ村山源氏とか?