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【ブックレビュー】ある愛の寓話:村山由佳

 

 

ある愛の寓話:村山由佳著のレビューです。

 

☞読書ポイント 

愛のカタチは人と人との間だけではないこともある。いや、人間よりももっと自分を理解し慰めてくれる存在になることも。大切なぬいぐるみ、犬、猫、モノ....等々。物書き生活30年の村山さんが紡ぐ珠玉の短編集です。

 

感想:自由に書くという素晴らしが伝わって来る物語たち

ある愛の寓話 (文春e-book)

ある愛の寓話 (文春e-book)

 

短編の話ってサクサク読めてその時は面白いと満足するのにすぐ忘れる。....というパターンが私には多い(汗)心に残る短編を書くってことは、作家にとって結構ハードルが高いものなんじゃないかと、ふと思う。

 

そういう意味で「愛の寓話」は、どの話も自分には印象深いものばかり。村山さんの短編ではこの作品が一番好きだと思ったほど。どの話も読み終わると深呼吸をしたくなった。なんだろう、息継ぎもせずに読んでいた感じがする。それだけ夢中で読んでいたのだろう。こんな風に感じさせられたのは何故なのか?それは後程記しますが、本書の「あとがき」の村山さんの言葉に膝を打つことになる。

 

さて、「ある愛の寓話」ですが、このタイトルの作品はない。しかしどの短編も、読んでいるうちにじわじわとこのタイトルの意味が実感できるものになる。「あぁ、なるほど!」と、何度タイトルの意味を噛みしめたものか。

 

愛のカタチというものは、何も人と人だけのものではない。人々が愛情を向ける対象は、大切なぬいぐるみ、恋人の犬、捨てられたネコ、美しいナンタケット・バスケット、昔一緒に過ごした馬、そして過去の記憶など。どの話もその人にとって、本当に大事にしてきたものばかり。それらの思い出と人とのかかわりを絡めながら、物語は自由に羽ばたいていく。

 

 

 

 

特にわたしのお気に入りは「晴れた空の下」と「グレイ・レディ」。

 

「晴れた空の下」は少しずつ記憶がなくなっていく中年女性と大切にしているぬいぐるみの話。大事にしているぬいぐるみが自分にもあるので、この話はもうほんと気持ちを持っていかれっぱなし。「大人になってもぬいぐるみ?」なんて馬鹿にせず、その人が大事にしてきたものをきちんと察し、理解してくれるパートナー。自分が大事にしているものを大事にしてくれるってことは、自分を大事にしてくれると同じこと。そんなパートナーの大切さを、村山さんご自身が誰よりもご存じだからこんな風に描かけたのだろうなと。

 

「グレイ・レディ」は、ナンタケット・バスケットの話。本作はまさに「物が語る」なんです。ある事情で持ち主が変わったナンタケット・バスケットの一生は、ずっとそのバスケットを愛し、使い続けた女性とともに生涯を終える。心底、物語って楽しいなっていう気持ちをを存分に味わわせてくれる素晴らしい作品でした。

 

その他にも猫や馬も登場。猫のはなしはキュートでユーモアがある。村山さんの愛猫・もみじちゃんも、もしかしたら人間の言葉を話したのかもしれない。

 

また、動物がいる環境で育まれた人間関係なども織り込まれ、話に深みが増す。これがじんわり来る話が多いのです。

 

本書はどちらかと言うと年を重ねた人たちの方が響く内容のものが多い。「死」というものを嫌でも意識しはじめるいわゆる「人生の午後」に差し掛かった人々の方が、熟成された過去があるからこそ実感できる部分があると思うのです。振り返ってみた時に残っている思い出とか、人間関係とか、リアルタイムで進行中の人よりずっと入り込める作品だと思います。

 

最後に「あとがき」から村山さんの言葉を。

「ある愛の寓話」と名付けたこの小さな物語たちを紡いでいる間は久々に自由だった。本当に久しぶりに、すべての約束事から解き放たれて心を無限に遊ばせていた。

 

そう、この言葉がそのまま伝わって来た作品だったのです。物語を書いた村山さんが自由だったのと同じく、読む側もそのまま自由を感じ、物語の世界を飛び回った。だからこんなにも心地よくこの作品が好きだと言い切れたのかもしれません。素敵な一冊でした。

 

りすさんからのnext本

「ある愛の寓話」、愛のカタチってホント、人の数、動物の数だけあるってことを実感する作品だったなぁ。そこで思い出したのはこちらの本。動物と人間の関係性を取り上げたノンフィクションなのだけど、かなり衝撃的な内容だったのよ。読むのに覚悟がちょっと要る。でも、これも愛のカタチのひとつね。

 

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