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*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【感想・あらすじ・レビュー】僕の女を探しているんだ:井上荒野

 

 

僕の女を探しているんだ:井上荒野著のレビューです。

☞読書ポイント 

短編集ではあるけれど、どの話にも登場する長身・美形のリーさん。彼は大事な人を探しているところなのだけど、その途中で様々な人々と出会い、彼らの心の傷を癒すが如く目の前に現れ、寄り添ってくれる。どの話もチクチク胸が痛むストーリーで目が離せない。

 

感想・あらすじ 

大ヒットドラマ「愛の不時着」に心奪われた著者による熱いオマージュの込められたラブストーリー集

ということで、コロナ禍に大ヒットした韓流ドラマ「愛の不時着」のオマージュとのことです。このことは読み終えてから知りました。私にこの本を読むきっかけを与えたのは、作家・村山由佳さんがTwitterで、「早く読みたい!」とつぶやいていたからなんです(笑)村山さんが心待ちにするくらいだから、これは期待しちゃお♪っと便乗。

 

なので、「愛の不時着」のことはまったく知らないし、観ていないわたしですが、そういう状態の者にとっても十分、胸をキュンキュンさせながら読めた短編集なのです。

 

ひとつひとつのラブストーリーの完成度も高く、スルスル読めてしまう。そして、ここがおそらく韓流ポイントなのだろうと思われるのが、どの話にも登場する謎の男。回を追うごとに、彼の存在がどんどん大きくなる。

 

 

 

 

その男は背が高く、美しい顔をしていて、そして、様々なことに悩み、傷つき、苦しんでいる人々のもとに現れ、そばで優しく見守ってくれる存在なのだ。まるで、真綿に包まれたようなソフトな包容力で人々の心を軽くしてくれる。その名はリーさん。

 

彼がなんで困っている人々の前に現れるのかは謎なのですが、彼自身は現在、大事な人を探しにここにいるらしいのだ。探している最中に、困った人や傷ついた人々と出会い、最高の助っ人として彼らをサポート。出会う場所もこれまたバラエティに富んでいて、彼の神出鬼没っぷりも楽しめる。最初はフムフムと彼の様子を観察していたのだけど、どんどんこの彼のふんわりしたやさしさが身に沁みて来るのである。

 

物語自体は結構シリアスだ。どの話もどこにでもありそう。でも、本人っとては辛い問題ばかりなのだ。特にピュアな心模様を描いた1話目の「今まで聞いたことがないピアノの音、あるいは羊」は、若い二人の恋の行方と、幻想的な雰囲気が相まって、ものすごく引き込まれるストーリーでした。

 

どの話もチクチク刺すような痛みを伴いながらも、リーさんのやさしさに触れ、皆、前を向いて進んでいくような展開。そんなリーさんといつまでも一緒に居たいと思うのだけれども、リーさんは役目を果たすとスッと消える幻のような人。でも彼には決して揺るがない気持ちがそこにある。それは、大好きな彼女への気持ちと、必ず会えるという思い。

 

リーさんに出会った物語の中の人々も、そして私たち読者も、そのことだけは最後までしっかり胸に刻まれる。それだけに彼の行方もずっと気になるところ。さて、みんなを助けたリーさん、大事な人との再会は果たせるのか?最後まで目が離せません。

 

 

 

 

今回は少し珍しい感じの作品だなぁ~と感じ調べたところ、冒頭に書いた「愛の不時着」のことを知りました。「愛の不時着」は、かなり話題になっていたのでもちろん知ってはいましたが、観るまでにはいたらず。しかしこの小説を読んで、荒野さんがどこに刺激を受け、この小説を書くに至ったのか、観てみたいと思いました。

 

ということで、ドラマを観ていなくても十分楽しめる内容です。リーさんに会ったこともないのに、読み進めるごとに彼の美しさにうっとりさせられましたよ。きっと妄想が炸裂してたのだと思う。願わくば、わたしが困った時にも、是非、リーさんが目の前に現れくれないものか....と思った次第です。

 

新潮サイト試し読み

試し読み | 井上荒野 『僕の女を探しているんだ』 | 新潮社

 

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今さら感はありますが、なんだか観たくなっちゃうんですよねぇ。

・井上荒野プロフィール

1961年東京都生まれ。成蹊大学文学部卒業。1989年「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞を受賞し、デビュー。2004年『潤一』(新潮文庫)で第11回島清恋愛文学賞、2008年『切羽へ』(新潮社)で第139回直木賞を受賞。『あなたがうまれたひ』(福音館書店)など絵本の翻訳も手掛けている。(Amazonより)