聖なるズー:濱野ちひろ著のレビューです。
☞読書ポイント
これらは夢の中の話でもなんでもなくノンフィクションなのだ。想像をはるかに超える世界。
新潮社の中瀬さんが「5時に夢中!」で紹介。そこで知った1冊なわけだが、おそらく自分だけでは素通りしてしまった本じゃないかと思う。中瀬さん曰く「人生が変わるくらい」と。これは相当スゴイ内容なのだと感じ、急いで図書館の予約しようとするも、予約人数がとにかく多かった。一旦諦め、やっと最近になって手元に来たという経緯があります。
うれしさを噛みしめつつ読み始めると、濱野さんの身に起きたDVの話などが...。かなりの衝撃を受けつつページをめくる。1/3くらい読んで、2-3日別の本を読んで頭の中をクールダウン。次に進むのに気が重くなってしまったのだ。気持ちを新たに後半へ。今度は一気に読みました。
これねぇ、少し前に読んだ朝井リョウの「正欲」に通じるものを感じました。「多様性、多様性」って言うけれど、自分の想像の域を超えたものが、世の中には本当にたくさん存在する。それを理解するのは相当ハードなことだなぁ....と再び考えさせられた。
我々は動物のことをどこまで知っていて、どこまで関係を築いているのか?ペットの性欲って?ペットに愛情を注ぐって?ペットが自分を誘って来るって?ペットとセックスするって?そももそ、どうしてこういうことを始めたのか?そのきっかけは?愛とは?対等とは?パートナーとは?自由とは?....もうね、矢継ぎ早にいろんなことを問いかけられているような気がしてかなり苦しい。
著者の濱野さんは、犬や馬をパートナーとする動物性愛者「ズー」たちの話を聞くためドイツに向かう。彼らと寝食を共にし、信頼関係を築きながら彼らの本音を引き出してゆく。
動物性愛者と言っても、その中にはゲイ、レズビアンなど様々な形があり、そこに動物のパーソナリティやら互いの相性などもあり、ひとつとして同じものは存在しない。彼らの行為や関係性は、ごくごく自然な流れから生まれたもので、そこには無理もなく、相手を思いやる愛情にあふれている。なのになぜだろう、そこに戸惑う自分がなんだか具合が悪いというか....衝撃の方が勝る。
また、濱野さんが訪れたドイツのイベント「エクスプロア・ベルリン」の話も強烈だった。改めてヨーロッパにおいての「性」の開放度がアジアのそれとは段違いと感じさせられるものがあり、こちらも衝撃的だった。そこへ乗り込んでいった濱野さん、勇気があるなぁ。
とにかく読む前と読んだ後、自分の見てきた世界の狭さに気づきます。戻れないものも感じます。知ってよかったか?と問われたら、まだまだ頭の整理はできず、答えは出ませんが....。
読むのに覚悟がいる本だと思います。色々なことが真っ正面から語られているので、それをどう受け止めるか、自分自身の内面に潜んでいるものをも問いかけられる内容だと言えます。とにかく気になる方は覚悟を決めて読んでみてください。気楽には読めないぞ!と警告しておきます。
本は本をつれて来る
これを読んだら安易に「多様性」という言葉を使えなくなった。
自分が想像できる"多様性"だけ礼賛していませんか?