春の夢―或る台湾人女性の物語:山中啓二、許旭蓮著のレビューです。
☞読書ポイント
ある台湾女性の人生から見えてくるものとは?
なにかとても得るものが大きかった一冊でした。戦前から戦後までの話を通して、当時の日本、台湾、中国の関係性が、人々の生活からはっきり見えたと実感できました。
恥ずかしながら当時の三国間の関係性について、いまいち自分の中で掴み切れてない部分があって、いつかちゃんと知りたいなぁ...というか、知らなくてはならないと思っていた。今回物語を通して無理なく理解できたのがなによりも収穫です。
舞台は横浜。横浜と言えば中華街。今では近くにある中国といった感じで、大勢の人が気軽に訪れる場所。しかし華僑の人たちは、どのような経緯で古くからあの街に住み続けているのだろうか?知っている人は意外にも少ないのではないだろうか。
本書は戦前から戦後までを通し当時の様子が綴られている。戦争に翻弄された人々の様々な過去が浮かび上がる。
特に結婚を意識した恋愛真っ只中の若い二人が、戦争によって離れ離れになり、その後、音信不通になってしまう。彼らのその後の人生がどうであったのか?よくある話に聞こえてしまうかもしれないけど、これがまたとても深みのある展開になっている。
魅力的な人々がたくさん登場するのですが、核になる人々はみんな思慮深く、誠実で、人として素晴らしい。互いの立場をこんなにも思いやり、考えて行動できるなんて!自分だったらどうだろう?自分の気持ちだけで突っ走りそうだなぁ...なんてことも考えてしまう。
中華街の歴史に留まらず、日本と台湾の関係、戦争、植民地、家族、女性の生き方、仕事、恋愛、結婚、アイデンティティ等々、今のわたしたちも引き続き考えなければならないテーマがたくさん描かれている。
また、楽しい場面もたくさんある。有隣堂に欲しい本を探しに行くなんて場面に「おっ!」となったり、とにかく2019年に辿り着くまでの長い長い話は、最後までじっくり読める内容だ。離れ離れになった二人の行方も含め目が離せません。
台湾旅行をすると日本語を話せる人にたくさん出会う。親日的であることを身をもって感じたのは、かれこれ20年くらい前のこと。台湾の知人に手厚いおもてなしを受けたことがあります。笑顔で迎えてくれた彼らの表情は今でも心の中にあります。
そして現在も震災などですぐに手を差し伸べてくれる国は台湾。個人個人の付き合いはもちろんのこと、国と国との友好関係もずっと続いている。そんな台湾との友好関係の土台を築き上げた人々と、中華街から溢れ出す活力の源を、ぜひ本書から感じて欲しいと思うのです。
【つなぐ本】本は本をつれて来る
大好きな1冊です!
台湾の大家族と、ダイナミックな台湾料理に魅了されます。