昔は面白かったな 回想の文壇交友録: 石原慎太郎、坂本忠雄のレビューです。
☞読書ポイント
言いたい放題ではあるけれど、どこか淋しさが漂う
「昔は面白かったな」ってタイトル通り、こんな人たちが実際に居たんだ~と言うくらい、個性的な人々が居た時代の話。
石原慎太郎氏と、文芸編集者の坂本忠雄氏の対談をまとめたもの。坂本氏は新潮社で石原氏をはじめ数多くの作家を担当されていたそうです。1981年から95年までは月刊「新潮」の編集長も。
もうね、私世代からすると、文字の世界ででしか会うことのできない人物がたくさん登場し、「あぁ、本当に存在してたんだ」と目が覚める感じ。当たり前なんだけれども、こうした話から当時の様子を聞くと、生々しいリアルな人物やリアルな人間関係が浮かび上がってくる。
と同時に、石原さんって都知事のイメージ、政治家のイメージが強いのですが、こうした話からバリバリ文壇の人であったことも覗える。
I知性への反逆 II時代の刻印 III文学と悪 IV文学と死 V政治と文学
各章、このような括りになっていますが、ただひたすら対談を聴いている感じで、テーマに縛られることなく自由に話しているといった印象です。
川端康成や小林秀雄、吉行淳之介、高見順、三島由紀夫.....まだまだたくさんの作家が登場する。こんなことがあったね、あんな人がいたね、といった具合で、たまに暴露話みたいなものが挟み込まれていて、作家たちの意外な一面が面白い。また、文壇バーの話も。あの「おそめ」の話も登場。やぁ、文字だけの世界だったのに、行った人の話が聞けるとは!
登場する人々の大半はもう亡くなってしいまっている。思い出しながら、そのことへの淋しさみたいなものが見え隠れ。石原氏はご自身の老いを含め、ちょっと気弱な発言もチラホラあったなぁ。
しかし、他人に対して大半は辛辣な発言(笑)相も変わらず、小池百合子氏への痛烈な批判は健在。
自分の作品を褒められることは歓迎のようで、「そうでしょう!」と全面的に肯定!対談相手の坂本さんがこれまた褒め上手!?なんですわ。まぁ、すごい分かりやすい方ですね。
という事で、本書は新潮社の中瀬ゆかりさんが「言いたい放題で面白い」と、ラジオで紹介されていて、面白そうだったので借りて来た一冊。
以前読んだ「トットひとり」をちょっと思い出した。80歳も過ぎると、共に頑張って来た周りの人々が次々と亡くなっていく。そんな人々との思い出語り。やはり、黒柳さんもたくさん楽しかった当時の話をしているけれども、ところどころ淋しさが漂う。今回の石原氏にもそんな気持ちが言葉に交じっていていたなぁと。
いろんな経験をしてきた人ほどその喪失感みたいなものが大きいものなのかもしれない。特に石原氏のようにこれだけ個性豊かな人々が周りに居た時代を見て来たら、今の世の中に物足りなさを感じてしまうのだろうなぁ・・・と、勝手に想像している。
【つなぐ本】本は本をつれて来る