給水塔から見た虹は:窪美澄著のレビューです。

☞読書ポイント
感想・あらすじ
もう窪さんの作品とのお付き合いは長いので、本作の雰囲気はいつも通りだな.....って、自分のなかで生まれつつあるマンネリが顔を出していた。なので、作品が大きく動くまで、正直、もういいかな....なんて思ってしまった。あれだけヒリヒリ痛みを感じる窪さんの作品に惚れ込んでいたのに。読者ってなんて身勝手な存在なのだろう?と自問自答(笑)
と、ごちゃごちゃ言っていますが、感想を書いているということはつまり読了したということです。後半まで粘って読み続けた先に見えたものは、やはり読んでよかったというものでした。
ひと昔前と違って今は外国人が普通に近隣に暮らしている時代。特定の国の人が大勢暮らすエリアもあれば、この話のように、様々な国の人々が暮らす団地も増えてきていると聞く。本作はそんな団地で暮らす日本人とベトナム人の中学生を主人公にした物語です。いじめ、差別、思春期、犯罪、貧困....等がこれでもかと言うほど、目の前に突き出される前半。かなりしんどいです。
後半は団地を飛び出した二人のちょっとしたひと夏の冒険であり、大人への扉を開ける瞬間が描かれている。団地の暗い雰囲気から抜け出して見えてくる風景と、二人の心の変化、成長がどんどん高まってゆく感じに、何度もうんうんと頷きながら見守りました。

それとふたりの母親のこともいろいろ見えてきます。桐乃の母も、ヒュウの母もあまり子育てに熱心ではなかった。親子の距離は離れるばかりといった感じでもどかしかったのですが、後半になると、やはり彼女たちだって頑張っているし、なぜ家庭を犠牲にしてまで仕事や他人の世話で忙しくしているのか。個々の思いや痛みは本当にその人の身になってみないと分らないものだ痛感。
とにかく学校も団地も家庭も見渡す限り殺伐とした雰囲気、友達のいない二人の少年少女の孤独、居場所がどんどんなくなっていく息苦しさが続いた。なので二人がこの団地がら抜け出し、自ら動き始めた展開にはちょっと興奮。まぁそこでもひと悶着起きますが、これがあったからこそ、みんなの心に変化をもたらしたのだと思います。特に桐乃にとって、このとき出会った人々は、彼女を大きく成長させただけでなく、一生彼女の中に生き続けるものになったことだろうと。
いろんな人々が登場したけど、みんな必死に生きています。誰も悪くないのに、悪い状況が生まれてしまう、対立が起きてしまう。その根本にあるものは一体何なのか、いま一度、探りたくなりました。
ということで冒頭に感じたちょっとしたマンネリ感、最終的には吹っ飛んでいましたが、次作はどんな感想を自分が持つのか.....。気持ち的な変化が起こるかなぁ。
窪美澄プロフィール
1965(昭和40)年、東京生まれ。2009(平成21)年「ミクマリ」で女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞。受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10第1位、2011年本屋大賞第2位に選ばれる。また同年、同書で山本周五郎賞を受賞。2012年、第二作『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞を、2019(令和元)年、『トリニティ」で織田作之助賞を、2022年『夜に星を放つ』で直木賞を受賞。(Amazonより)





