夜空に浮かぶ欠けた月たち:窪美澄著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ
ある町の「純喫茶・純」と「椎木メンタルクリニック」に通う人々の話。メンタルクリニックと言うことで、精神的に疲れている人たちの話が次々と登場する。
なかなか大学生活に馴染めない学生の不登校、ADHD、産後うつ等々、いわゆるクリニックへ行ってお薬を処方してもらった方がいい人々。
こうして読んでいると、精神を患うことは誰にでも起こり得るってことがよく解る。環境の変化や人間関係でガラガラと崩れ落ちる精神状態は、必死になっている本人には非常に見えにくく、助けを求めることすらままならなくなる。
そんな時、この物語のように周りの誰かが気づき、適切なアドバイスをすることが、いかに効果的であるか、本書のいくつかのケースを見ていくとよく解ります。そういう意味でも一度目を通しておきたい一冊ですね。
さて、この物語に登場する人々はみんな心の傷を負ったことがあったり、現在苦しんでいる人々。「純喫茶・純」の純も、「椎木メンタルクリニック」の夫婦も、かつては苦しんでいた。だからこそ、今、苦しんでいる人の力になろうと手を差し伸べる。
クリニックに行くまでのハードルの高さ。精神的な病気ということを自身が認めたくないと思う気持ち。薬を飲むことの抵抗感など、患者たちの戸惑いが細かく描かれ、非常に心苦しいシーンも続くが、幸い、「椎木メンタルクリニック」の診療がクリニックという雰囲気が全くなく、フランクに話せる場として登場する。どんどん心がほどけていく過程を見るにつけ、本当にこういうクリニックが存在してほしいなぁと思ったほど。
後半は「純喫茶・純」の純さん、そしてクリニック夫婦の過去の話になる。ここからは、なんとなく村山由佳さんの「おいコー」を読んでいるような錯覚が。人々の絡みや過去に負った傷の痛みが....なんとなくなんですけどね。
ということで、心に行き詰まりを感じるってどんな状態なのか?自分や周りの人を含め、参考にもなる話でした。そして、人間は回復できる力を持っている生きものなんだと改めて感じました。
窪さんのこれまでの小説と比べると本作はかなりマイルドな感じがしました。ここ数年、ちょっとお行儀がいいというか、きれいにまとまった作品が多いかな~。嫌いじゃないけど、もうひとパンチ利いたとんがった長編が読みたいと切に思うのだけど、そろそろ来るかな?(笑)
窪美澄プロフィール
1965年東京都生まれ。2009年「ミクマリ」で第8回「R‐18文学賞」大賞を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』で第24回山本周五郎賞を受賞、本屋大賞第2位に選ばれた。12年、『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞を受賞。19年、『トリニティ』で第36回織田作之助賞を受賞。22年、『夜に星を放つ』で第167回直木賞を受賞。(Amazonより)
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「夜空に浮かぶ欠けた月たち」窪美澄 [文芸書] - KADOKAWA
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