タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース:窪美澄著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ
これはYAかな?って感じの作風でした。かねてから窪さんには子供中心の長編小説を書いて欲しいなぁ~なんて思っていた。というのも、複雑な大人の世界に出て来る子供たちの心理描写にいつも感心させられていたから。変な言い方だけど、物語の脇を立派に固めている存在なんですよね。だから、今度は子供が主人公ならどうなんだろう?って思っていた矢先にこの小説が登場。
装丁からしてYAモードですが、とくにYAの括りではなさそう?なんですよね。まぁ、それはそれとして、子供たちが主人公である話であります。
舞台は都心の古い団地。みかげは5歳年上の姉・七海と二人きりで暮らしている。父親は死別、母親は彼女たちを置いて男と出て行ってしまった。生活費は七海がデリヘリをして稼いでいる。みかげは喘息持ちで体が弱い。それでも姉を少しでも助けようとパン工場でアルバイトをしながら夜学に通っている。
みかげはこの夜学に通う前は、学校でいじめられていた。そしてみかげにはもう一つ、姉が苦労して家計を支えてくれているにもかかわらず、自分があまり力になれていない無力さをいつも感じている。
そんなみかげだったが、夜学に通うようになってから、二人の友と出会うことが出来、少しずつ学校へ行く楽しさも感じられるようになってきた。さらに、団地警備団を名乗る年寄り・ぜんじろうと団地の見回りをするようになった。彼女の生活がこれらの出会いにより少しずつ変わってゆく。
というか、酷いですよね。彼女たちの母親は。物語ではこの母親のことについて多くは語られてないのだけど、娘たちを置いて出て行ったにもかかわらず、後に七海が稼いだお金を留守中に盗みに来るなど、本当にえげつない。
ここに登場する人々は、みんな人には言えない過去や傷を負っている。彼らはどこか自分と同じような境遇である人に対して察する力がある。だから互いの気持ちに土足で踏み込むようなことは決してしないし、人との距離の縮め方もちょっぴり不器用だったりする。みかげたちよりうんと年上のぜんじいがその代表格とでも言おうか。唐突でぶっきら棒なぜんじい。彼にもまた悲しい過去があり、そんな経験を持つ彼だからこそのやさしさと行動力はとても頼もしい。
この物語を言葉にすると「助け合い、支え合い」かな~。人はみんな誰かを助け、誰かに助けられ、支え合っているんだ....ということが随所に感じられました。特にこうした古い団地の高齢化には助け合いは必要不可欠であるということも。
本書ではみかげの母親のようなネグレクト、貧困、自殺、いじめ、人種差別等々、私たちが日ごろ目にする問題がたくさん登場する。みかげが未来に希望を持てずにいるのも、このうような問題が身近にあったから。にもかかわらず、みかげは「死体」を見たことがなく、いつか見たいという願望があった。このあたりのちょっと歪んだ感覚にギョッとさせられるものがあるんですけどね。
さて、みかげたち、そして団地に住む人々はピンチを乗り越えることができるだろうか?物語が進むにつれ、みかげがどんどん強く逞しくなっていく様子をぜひ、目にしてほしい。
そして、窪さんの作品は決して人々を見捨てないってことも。いつでも明日へ向かうことを諦めない。ラストにほんの少し光が差す作品なのです。
タイム・オブ・デス、デート・オブ・バースの意味は?
time of deathは死亡時刻。date of birthは誕生日。死と生を表したタイトルなんだね。
窪美澄プロフィール
1965年東京都生まれ。2009年「ミクマリ」で第8回「R‐18文学賞」大賞を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』で第24回山本周五郎賞を受賞、本屋大賞第2位に選ばれた。12年、『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞を受賞。19年、『トリニティ』で第36回織田作之助賞を受賞。22年、『夜に星を放つ 』で第167回直木賞を受賞。(Amazonより)
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