美しき一日の終わり:有吉玉青著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ
あー余韻激しい小説とはこのようなものだったなぁと、久々に余韻を引きずりまくっています。全体的な印象は静かでしっとりしたという表現になってしまうんだけど、加えて、人生を味わい尽くすような奥深さがあり、読後感の充足感はなかなかのもの。
「美しき一日の終わり」「一日」は「いじじつ」と読むみたいです。あらすじは引用します。
ということで、異母姉弟の出会いから、その後の55年間を綴った小説。二人が育った家の取り壊しが決まり、その家で再会したふたりが、これまでの出来事をゆっくり、ゆっくり振り返る。ちょっとした現在の会話があり、スーッと昔の話に入っていく。それはなんだか、眠りのなかに入っていくような感覚で、いつの間にか、当時のふたりの姿が浮かび上がって来る。
前半はまだ幼かった二人の日々。夫が外で作って子どもにどうしても優しくなれない母の姿が印象的。秋雨につらく当たる話が続き、気持ちがどんよりするのだが、そんな母親とは真逆な行動をしていたのが姉の美妙。美妙は秋雨を守るかのようにいつも秋雨を見つめ、助けの手を差し伸べる。
それがいつしか特別な気持ちになっていくことになるのだが、その戸惑いや二人の距離感などが絶妙な塩梅で読者を惹きこんでいく。やがて秋雨は京都の大学へ。もう自宅には戻ることはない決意で京都へ旅立つのだが、美妙はそんな秋雨のことが心配で心配で、結局、京都へ行くのだが....。
大人になった二人はそれぞれの家庭を持ち、美妙も夫となった人と幸せな家庭を一番にと考えていたけど、やはり秋雨のことは常に心の中にいる。秋雨の気持ちはどうだったのだろうか?様々な想いを胸に再会したふたりの姿とは....。
もうなんというか、二人の集大成というか、とにかく他人事ながらにものすごくのめり込んでしまう。ずっと温め続けていたものは、まるでこの一日を過ごすためにあったかのよう。
人生の終盤にきて、ここまで想える人がいるのはとても幸せだと思う。そして二人が共に過ごした場所で誰にも邪魔されず、穏やかに、静かに、人生を振り返る。本当に美しい一日だったなぁと。
なんとなくね、こういう設定ってちょっと安っぽくなりがちだけど、本作はとても綺麗な想像のまま酔わせてもらえました。読後は二人のエピソードが次々思い出され、溢れてしまって、ずっと切なかったりしたけど、それもまた良かった。
有吉玉青さんは有吉佐和子さんの娘。名だけ見ると偉大な母親の七光り的なものを感じる方もいらっしゃるかもしれないが、そんなことは別として、一人の作家としてやはり素晴らしい才能を持った方。
有吉佐和子さんの小説は、社会派小説以外は結構カラっとした雰囲気のものが多いのに対し、玉青さんの小説はちょっと暗め。作品だけを考えると親子で「陽と陰」の違いが分かりやすい。親子作品の読み比べ、お勧めいたします。
有吉玉青プロフィール
1963年、東京生まれ。’90年に、母・佐和子との日々を綴った『身がわり』で坪田譲治文学賞を受賞(Amazonより)
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