かけらのかたち:深沢潮著のレビューです。
止めどなく、羨んだり嫉んだり・・・
在日韓国人の小説と言えば深沢さんと思っているのですが、それと同じくらいリアルなヒューマンドラマも読みごたえがある小説が多い。ふんわりした表紙ではあるものの、中身はかなり辛口。今回も面白くて一気読みでした。どこにでもある日常風景。平静を装いながらも、そこにはかなりの複雑な感情が生まれている。
例えば夫の学生時代の集まりに参加する妻。自分の知らない夫の時間を知っている仲間たち。そこに君臨するマドンナ的存在の女性。もしかしたら、夫と昔なにか関係があったかも?等々、自分の知らない時間に悶々とする妻の気持ちは複雑だ。そんな設定の「マドンナとガガ」。このタイトルの意味が徐々に解って来る妻の気持ちの変化が爽快!なストーリー。
同級生の女性が集まった食事会の様子を描いた「アドバンテージ フォー」。
この話のマウンティングがすごい。
①「うん。ふたりとも理系だから、遅くまで授業がびっしりなの。周りが優秀だから辛いみたいだけどね」
②「どこまで通っているの」
「駒場」
③「上のお嬢さんは、どこの駅に通っているの?」
「日吉、じゃなかった。今は信濃町かな。うち、サラリーマンだから、国立に入ってほしかったけど無理だったの。だって、私立の医学部、お金かかるもの」
これ、一見普通の会話に見えるのですが、すごいマウンティング会話なのです。
①は「周りが優秀だから」とさりげなく、娘の通う大学のレベルが高いことを挟んだ会話。
②は「駒場」というのはつまり駒場東大前駅のことでで東京大学を示す。東京大学を略して言うあたりがもう(笑)
③はあえて質問者が学校名でなく駅名で質問する。その答えがこれ。日吉、信濃町。つまり慶應の医学部。国立は無理だったと言いつつ、難関の慶應医学部。しかも経済的な余裕を覗かせている。
ひゃーーって感じです。会話と会話の間にあるものを、瞬時に彼女たちは読み取り、やぁ~な気持ちになるのです。こりゃ、ヒアリング力も必要ですな。
いわゆるご自慢や見栄もこうしてオブラートに包むような遠回しに言う人っていますよね。あの時のモヤっとした感じが、この話で炸裂しています。これは、なにも日常会話だけでなく、いわゆるSNSでも見られる現象。ちょっとした自慢も、匙加減を誤ると一気に叩かれる時代なのだと改めて感じます。
6話ある話は、ちょっとずつ繋がっている短編集です。
中には不妊に関する話題などシビア内容も含まれていてます。
いろんな情報がネットやSNSを通して知れてしまう時代。同級生のその後を知ることによって、羨んだり嫉んだりするケースが増える。人は人、自分は自分、家は家。このあたりの線引きの難しくなってきている世の中だからこそ、自分を見失わないことの大事さに気づかされるような話の数々でありました。
次回は在日の小説でしょうか?A面とB面(古い)があるような深沢潮さんの世界。
次作も楽しみにしています。
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