いい子のあくび:高瀬隼子著の書評です。
☞読書ポイント
感想・あらすじ
高瀬さんの作品を読むのは芥川賞を挟んで4冊目。いまのところ全部読んでいる。とにかく不思議な魅力、いや、何というか吸引力のある作家さんです。読んでも読んでも、解ったような、意味不明のような気分を行ったり来たりする作品が多い。
うっすら共感したかと思うえば、「ええーーなんでそうなるぅう?」と突如、突き落とされるような感覚が襲ってくる。大きなことではないけど、些細なことが猛烈に牙を剥いて来るような怖さみたいなものもある。
高瀬さんは何度か映像で拝見しているが、おしとやかで、どちらかというと物静かで、いつも微笑んでいる感じの印象がある。しかし、ニコニコしながら「うわっ」ってさせられる発言が飛び出す。そう、これなんです。高瀬作品は高瀬さんの特徴がそのまま作品になっている....そんな気がしてきました。温和な人が吐く暴言とかって爽快でもあり、ゾクッとさせられる。この感じ、村田沙耶香さんにちょっと近いかも。
ということで本作は今までの作品の中で一番高瀬さんの気配を感じた。本作は表題作を含め3編。どれも日常のなんとなくもやもやしている問題が、主人公たちによって語られる。「それ、ほんとそう!」と思うことって日常のあちこちに転がっているものだ。そこを高瀬さんは丁寧にすくい上げ、もやもやしたものにメスを入れている。だから爽快感もあるんですね。
例えば、「いい子のあくび」では、歩きスマホの人が、前から人が歩いて来ているのに避けようとしない。チラッと見て分かっているくせに。何故ちゃんと歩いている人が避けてあげなきゃならないの?という理不尽な話から始まる。これって誰もが一度は経験したことがあるのではないかと思うが、本作の主人公はいつも自分だけが避けてあげていることに不満を抱き、その「割に合わない」を訴える。
また「末永い幸せ」は、結婚式に関するもやもやした感情を非常によく表してる。しかし、こちらは主人公の女性の行動がちょっと「妙」というか、「そんなことまでするんだ?」ってところが他にない面白さ。スパイスが加えられ一段と闇が拡がる。
いい子だね。優しいね。いつも笑顔だね。あなたのまわりにもきっといますよね。でも、もしかしたら心の中で、
「ぶつかったる」
と、毒づいているかもしれない。微笑みながら。
高瀬さんの描く世界は、奇妙な感じと、ちょっとした爽快感の繰り返し。読後感は決して悪くない。本当に不思議な魅力がある作家さんです。近いうちに新刊が出るみたいですね。これまた意味深なタイトル、気になる~。(うるさいこの音の全部)
高瀬隼子について
1988年愛媛県生まれ。立命館大学文学部卒業。2019年「犬のかたちをしているもの」で第四三回すばる文学賞を受賞。2022年「おいしいごはんが食べられますように」で第一六七回芥川賞を受賞
王様のブランチ★インタビュー
「いい子のあくび」について、高瀬さんのとても興味深いお話が読めますよ!
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発売日は2023/10/10ですって。兼業作家の話?高瀬さんご自身とかぶる感じかな?