うるさいこの音の全部:高瀬隼子著のレビューです。
☞読書ポイント
感想(ネタバレなし)
読み終えてまず思ったのは、「あーやっと読み切った」ってこと。決してつまらないわけではなかったのですが、全体的に疲れる作品で、どうにもこうにも集中力を維持するのがとても大変で、どこを読んでもどっと疲れるという珍しいパターン。
でもそう考えると、この本のタイトルも装丁画もよくできているとも思う。主人公が勤めている職場がゲームセンターということもあるけど、とにかくいろんな意味でガチャガチャしてるし、いろんな雑音が入って来るという雰囲気。読むのは結構な体力を要する。
内容は途中でごちゃついてしまうのですが、2つのストーリーが並行して登場する....と心得ていると読み易い。最初に登場するのはアパートで独り暮らしをしている女子大生。友達とのわちゃわちゃした生活が描かれている。でも、こちらは本筋ではない。なぜならこの話は、本当の主人公・長井朝陽 の執筆している小説の人々なのです。
朝陽 は現在、学生時代からアルバイトをしていたゲームセンターに卒業後もそのまま就職して働いている。本業の傍ら、彼女は小説を書いているのわけだが、その小説が新人賞を受賞。そこから彼女の生活がにわかに慌ただしくなってくる。
この朝陽 の状況が、会社勤務?をしながら小説を書いて来た高瀬さんのプロフィールとかぶるので、なんとなくこの小説で描かれている朝陽 の苦悩のようなもの=高瀬さんの経験なのではないかと思わされる。なので、結構そこはリアルなんですね。
2作目は芥川賞を受賞。毎日帯びたたしいほどの各社からの取材やインタビュー依頼。そして、インタビューの内容、その返答などの、怒涛のごとくやってくる質問の数々に、思わず嘘や盛った話をしてしまうなどの戸惑いを吐露する朝陽 。これは、もしかしたら高瀬さんにもそんなことがあったのかぁと。
本を出版したり賞を取ったことで変わった周りの人々の姿。会社側も含めて、いろいろこれまでのままじゃいられない生活へと変化。まぁ、確かに作家さんにとって、賞を取ると生活が一変するというのは容易に想像がつきますよね。しかし、受賞後のお祭り騒ぎのような時間も瞬時に終了。次の賞取りレースがはじまれば騒ぎも収まる。
(本文より)
旬が過ぎ、また一から作品に取り込むということのプレッシャーや、兼業作家でいるかどうかなどを考えると、本当にしんどいだろうなぁと。
ということで、頭の中を整理しながら読む分、吸い取られるものがあった。もちろん、早瀬さん独特な言い回し(例えば、「息子の人」みたいな呼び名にしたりする)など、毎度ニヤリとしてしまう部分もあってそれなりに楽しいのだけど、本作はとにかく疲れました(笑)
余談ですが、今回、小川哲さんの「君が手にするはずだった黄金について」を同時進行で読んでいた。これ、図書館の予約でたまたま一緒に届いたんですが、こちらの作品も小川さんご自身のこれまでの友達関係のことや、作家という仕事に関するあれこれを綴ったエッセイのような小説だったのですが、なんとなく高瀬さんの作品のコンセプトと似ていた。自分をなぞらえて書くみたいなの、流行っているのかな~?なんてことを2冊を通じて感じました。
さて、次作はどんなものが飛び出すか。高瀬さんの作品は、長編より中編ぐらいが読み易いかなって個人的には思いました。
試し読み(文藝春秋のサイト)
『うるさいこの音の全部』高瀬隼子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
高瀬隼子プロフィール
1988年愛媛県生まれ。東京都在住。立命館大学文学部卒業。2019年「犬のかたちをしているもの」で第43回すばる文学賞を受賞しデビュー。2022年「おいしいごはんが食べられますように」で第167回芥川賞を受賞。著書に『犬のかたちをしているもの』『水たまりで息をする』『おいしいごはんが食べられますように』『いい子のあくび』がある。(Amazonより)
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