家庭用安心坑夫:小砂川チト著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ 父は「マインランド尾去沢」に展示されているマネキン
うー、うー、と、これもなにか理解に苦しむ「うなされる系」の作品だ。芥川賞候補で知った一冊。やはり芥川賞関連の作品は、どこか理解しがたいものが多いと言った印象がある。今村夏子さん、高瀬隼子さん、そして、小砂川チトさん。こちらの3人はどこか共通するものがある気がしてならない。ちょっと外れるが、村田紗耶香さんもそう。読むたびになにかゾワゾワさせられ、彼女たちの得体の知れない才能に背筋が凍る。
そういう意味でも本作は本当に不気味だし、最初はただただ得体の知れぬ怖さがあった。しかし、うっすらながら主人公の女性の気持ちが解りはじめると、これは深い哀しみの感情が行き着いたところなのだろうと。そう考えると、底知れぬ寂しさと、殺伐とした世界を描いた小説なのかもなぁ...と、答えをみつけたくなった。
さて内容です。平凡な専業主婦・小波。彼女はある日、昔、自分が自宅に貼ったと思われる「けろけろけろっぴ」のシールが、日本橋の三越デパートの柱に貼ってあることを発見をする。...という奇妙な出来事から始まります。もう最初から「おぉ!」となるのですが、むしろこれは序章にすぎません。
彼女はその後、母に父だと教えられていた「ツトム」の姿をよく見かけるようになる。ただし「ツトム」は人間ではない。「ツトム」は実家の近くにある「マインランド尾去沢」に展示してあるマネキン人形で、彼女はこのマネキンを母から「父」だと言われて育ったのだ。
展示物とは言え、当時「ツトム」にはツトムの炭鉱での生活があったわけで、小波の父親ではない。なので、「ツトム」は小波にとってあくまでも「父親像」でしかないわけだが、その境がなくなってしまったかのごとく、小波はもって行き場のない複雑な思いをこのマネキンにぶつける。
やがて彼女は今は誰も住んでいない実家に行き、マインランド尾去沢へも出向くのが、そこでとんでもないことを実行する。この場面がなんとも狂気に満ちていて、ハラハラ・ドキドキするものになっている。
とにかく全体的にひどく寂しい。実際、夫との会話なんかもあるのだけれども、とても孤独な雰囲気がつきまとう。ずっと小波の心の裡と向き合っている時間でもあり、ひどく気持ちが殺伐とした。
さて、なんだか夢遊病でもかかったかのような感覚から逃れたくて、「マインランド尾去沢」を検索してしまった。「夢であってくれー、小説だけあってくれー」って思ったが、これがまた実存する場所なんですねぇ。そして「ツトム」も本当に居るんだなぁ。
で、何よりも背筋が凍ったのは、この炭鉱の入り口に「父」って文字に見えるマークが目に入る。ツルハシらしきものがクロスしてるものなんだけど、「父」に見える! あそこは「父」への入り口なのか?筆者は知っていてここを「父」の居る場所に選んだのか?考えるほどゾワゾワが止まらない。
「家庭用安心坑夫」はアメトーーク!読書芸人でも紹介されました。
番組で紹介された本はまとめてありますので、ぜひ~♪
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得体の知れない不気味さに特化した作品は高瀬氏の小説も。こちらは、お風呂に入れなくなった夫の話。