日暮れのあと:小池真理子著のレビューです。
日暮れのあと:小池真理子著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ
ちょっと暗めな短編集でした。日の当たらないひんやりしたキッチンの床に座って読むのが合う....とでも言おうか。とにかくテンションがグッと上がるシーンもなく、ひたすら読んでいたという感覚が残ります。
というのも、収められている作品は、「死」という現実がそこかしこにある。そして、その死を見送った生きる者たちの姿がある。ゆえに、重苦しい雰囲気は、読んでも、読んでも拭えない気がして。
また、若い男性との恋愛話も多い。年の差に大きな開きがある恋愛がたびたび登場する。日々老いを感じている女性たちと、ひたむきに相手に突き進む若き男性たち。その対比が小池さんの繊細な文章からひたひたと伝わって来て、息苦しさも倍増です。
個人的に印象に残ったの作品は「夜の庭」。ある男性が亡くなった。原因は「手淫をした形跡」「自 瀆」「脳溢血」という言葉が並ぶ。字面からうっすら想像はできるのだけど、一体どんな話なのか、冒頭からいろいろと先が気になる話であった。
表題作の「日暮れあと」は、老いを感じている絵本作家の女性。庭の剪定に来た植木屋の青年にちょっとした興味が湧き、彼の恋愛話を聞くことに。彼が結婚までしたいと思う恋人は 、還暦をすぎた風俗嬢だった。
取り立てにこの話がどうというわけではないけれど、「過ぎてみれば、全部、どうってことなかった」という言葉が印象的だった。この心境に至るまで、彼女たちの人生には色々なことがあっただろう。ある年齢に達すると、人はこんな風に思えるようになるのか、としみじみ。
ということで、全体的には同じトーンの話だけれども、小池さんならではホラーちっくなテイストの作品もあり、飽きることなく読了。
本作はご主人の藤田氏が亡くなった後に書かれた作品のようですね。それゆえに、「死」と「生」、そして小池さんご自身が感じているであろう「老い」などが、いろいろなシーンの根底に流れているように感じました。
少々じめッとして、気持ちを吸い取られるような重苦しい作品が多かったですが、振り返ってみると味わい深い作品でもあったように思えます。ということで、自分のコンデイションにも左右される感じもしました。読む時期を選ぶ作品かもですね。
小池真理子プロフィール
1952年東京生まれ。1989年「妻の女友達」で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。以後、1995年『恋』で直木賞、1998年『欲望』で島清恋愛文学賞、2006年『虹の彼方』で柴田錬三郎賞、2012年『無花果の森』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年『沈黙のひと』で吉川英治文学賞を受賞する。主な著書に『水の翼』『無伴奏』『望みは何と訊かれたら』『神よ憐れみたまえ』『月夜の森の梟』など。(新潮社・著者プロフィールより)
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