墨東地霊散歩:加門七海著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ「幽霊」の存在を肯定も否定もしないと言うけれど....
加門さんの本だから散歩ものと言っても怖い本を想像。確かに怖いものもあったけれども、これは東京・墨東エリアの歴史を知るのに、大変貴重な資料とも言える内容で勉強になった。私自身も東京生まれだけど、自分の住んでいるエリアからやや遠い東京の東は、興味はあるもののあまり知らなかったりする。墨東エリアは永井荷風や吉行淳之介の小説にもたびたび登場し、個人的には興味津々な場所ではあるのですが....。
江東区、墨田区、台東区、江戸川区、葛飾区等々、結構入り組んだ感じなんですよね、これがまた。位置関係がいまいち分かない部分もあり、地図で確認しながら内容を追って行った。
そしてこのエリアは、戦争や震災の被害が大きかったこともあり、当時の様子が書かれた「火の記憶」は、是非読んでいただきたい内容だ。というか、戦争を忘れない意味でも、こうした「生の声」を定期的に読まなければなぁと感じました。
ここではこのエリアに住んでいた加門さんのご両親の話なども交え、命を繋いで来た人々の話が綴られている。(ちなみに加門さんの出身地は墨田区)「戦争さえなかったら、もっと多くの人が生きて、出会って結婚し、たくさんの子供が生まれていた。」という紛れもないことをいま一度考えさせられたこの章。これだけでもこの本を読んだ甲斐があった。
他にも「色町の話」なんかも面白かったし、たとえば、着物の帯の「お太鼓結び」は亀戸天神の太鼓橋から来ている――などの豆知識的な情報も大変興味深く拝読。当時の着物と言えば京都と思いがちだけれども、吉原の女郎や芸者衆もまたファッションリーダー的な役割があったという。
そして、今より少し前の「もんじゃ焼き」の話など多岐に渡る話は、知るだけでもお得感があった。たまに、加門さんがぼやく部分も面白い。
とにかく墨東エリアのことがみっちり詰まった一冊です。怖い話も随所に入ってきますが、どちらかと言うと歴史的な記録、それも加門さんのご両親や伯父さん、そして取材して聞いたものが多い。人間の記憶なのでどこまで正確かは判らないとのことだけど、加門さんはそれらの生の声をそのまま書いていらっしゃいます。こうした話は、時とともにどんどん聞けなくなってしまうので本当に貴重です。
これを読んで実際訪れるのも良し。この本を片手にスカイツリー界隈を観光するも良し。そういえば、しばらく会っていない友人がこのエリア出身だった。もんじゃの話はしょっちゅうしてたなぁと思い出す。今度会う時は案内してもらおうかなーと、楽しみがまたひとつ増えた♪
加門七海について
東京都墨田区生まれ。美術館学芸員を経て、1992年『人丸調伏令』で作家デビュー(amazonより)
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