世はすべて美しい織物:成田名璃子著のレビューです。
☞読書ポイント
成田名璃子プロフィール
青森県生まれ、東京都在住。魚座、A型。趣味は星占いと散歩。昔は東京に憧れていたが、今は田舎に憧れを持っている。会社員を辞め、現在はフリーのコピーライターも兼業。座右の銘は「何となく」。
感想:自分の人生は自分で決めることの大切さを。
女性たち三世代の物語。そして、手仕事にまつわる物語でもあります。物語はふたつの時代が交互に展開していくという形式で、まずは昭和。戦争が色濃くなっていく時代に生きる芳乃。北関東の桐生の養蚕農家に生まれた彼女は27歳。実家で蚕を育て、絹糸を撚り、反物を織る生活。彼女は生まれつきの薄毛ということもあり、器量よしの姉たちと違い、嫁ぐことなく日々淡々とした生活。しかし、そんな彼女をに思わぬ縁談が舞い込む。
相手は織物工場で膨大な資金力を誇る新田商店の次男・達夫だ。最初は乗り気でなかった芳乃だが、結婚したら好きなだけ織物を織らしてくれるということで結婚へ。芳乃もそうだけど、読者もこの縁談にはなにか裏があるのでは?と、ちょっとハラハラしたけれども、後半へ行くほど達夫の人柄が見え、彼女のことを大事にしていることが解る。
そしてもう一つの話は、平成三十年。詩織は現在25歳のトリマー。顧客の紹介で織物工房に通うも、母の厳しい反対に遭う。とにかく詩織の母は昔から、娘が手芸をすることを嫌っていた。理由は色々あるのだが、そのひとつに、詩織がADHD(注意欠陥多動性障害)を抱えているということにあった。しかし、詩織はもう25歳。母親の束縛から逃げるがごとく家を飛び出したのだ。
あらすじが少し長くなりましたが、昭和と平成、少し窮屈で不自由な事情を抱えたふたりの女性が、やがて周りの人々を通して一つに繋がっていく。どのように繋がっているのか、ひとつひとつ紐を解いていくような感じで、読者としてはなかなか目が離せない。
色々なことが分かって来ると同時に「織る」と言うことに対する「血筋」とか「血族」「ルーツ」などを感じずにはいられなくなる。織物に魅せられ、憑りつかれた人々が見せるその熱意の源は一体なんなのか。それは意図せず受け継がれてきた織物との「縁(えにし)」がこの一族にはあるのではないかと感じる。
さて、本書を通して桐生織りについて興味が湧きました。「西の西陣、東の桐生」と言われているそうですね。ノコギリ屋根の織物工場など、現在は減りつつも、まだ残っているものもあるそう。なくなってしまう前に一度見ておきたいものです。
桐生の自然を流れるような美しい文章で綴る物語に終始魅了された作品でもありました。桐生市のことはあまり知らなかったのですが、群馬の女性たちの骨太な姿がなによりも印象的でした。伝統を守り抜いて来たのは、男性たちよりむしろ女性たちの力が大きかったのではないかと。
ということで、なにか一歩踏み出せずにいる...なんて方には特におすすめ!その先に見える景色は、踏み出さないと見えないことを、この物語は静かに教えてくれている。
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