くもをさがす:西加奈子著のレビューです。
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感想・あらすじ くもをさがす:西加奈子
大好きな作家・西加奈子さん。
西さんがカナダで生活しているのを知ったのはいつだったかな。夜のNHKニュースでのインタビューに登場した西さんが、カナダに住んでいると言った。あの時は、西さんの状況を知らなかったものだから、「えーー、カナダに行っちゃったの?言ってよ~寂しいなぁ」と勝手に思っていた。けど、子育てとかの関係かな?異国でまた新鮮な視点から小説を書いてくれるだろうと。
そしてさらに時間が経ち、待ちに待った新刊の情報が入って来た。コロナ禍で鬱々とした時代だからこそ、私たちに必要なのは西加奈子の小説。西さんが思い描くこの時代を読みたくて読みたくて。
ようやくコロナが収束しはじめたところに今度は河出書房新社のツイートを見た。
「社内読んだ人が順番に「すごい」ってひれ伏していってて、いま河出社員のほぼ全員が読んでいる」
なんじゃそれ!一体、何が起きているのか?そんなすごい小説ってなに?って。わたしはこの時、新刊が「小説」だと思っていたのです。やがて、小説ではなく西さんご自身のことが書かれている内容だということを知る。
「くもをさがす」が、にわかに騒がれはじめると同時に、西さんがカナダで乳がんに罹っていたことが公表される。治療中にコロナにも罹ったことも。
本が世に出ると、西さんはテレビにも登場した。日本に戻ってきている。ちょっとお痩せにはなっていたけど、言葉に力もあるし、チャーミングでユーモラスないつもの西さんだ。相変わらず素敵な女性。でも、ここに来るまで、本当に大変だったことは想像に難くない。
話は長くなりましたが、この本は、そんな西さんの病気と当時のカナダでの生活が綴られている。わたしは怖がりのため、病気ものの本は滅多に読まない。でも、西さんの書いたものなら怖い思いはしないだろう...という妙な自信があった。なにより、西さんの言葉にいち早く触れたいとも思った。
本書を読んで、知ったこと、思うこと、考えたこと、共感したこと、本当にキリがないほどたくさんあった。どのページにも....だ。けど、ここで多くを語るのは控えることにした。
西さんは言う。
「あなた、にこれを読んで欲しいと思った」
この本を読んでなにを感じ、なにを考えるかはあなただけのもの。そこにわたしの感想を介入させることは恐れ多く、とてもできない。
ということで少しだけどんな読書時間だったかを記しておきます。
日本とカナダの医療体制の違いなどはもちろん、病気と向き合い方、周りのサポート、そして、何より自分の体を愛おしく想う西さんの気持ち。人はこういう状況になっても、こんな風に考えることが出来るのか....と、思わず泣き笑いしたくなった。作家の金原ひとみさんも言っているが、読みながら泣きそうになるんだけど、一滴も涙は出なかった。そう、これなんです。西さんのまっすぐな姿に圧倒され、泣いている場合ではないってね。
読んでいるときはずっと西さんと対話している感覚があった。一緒に怒ったり、怯えたり、大笑いしたり、ハラハラしたりと。そして荒波に立ち向かっていく西さんを何度も見送って、そして、おかえりと言いたくなったりと。
また、どんなときにも、西さんはたくさんの本と共にいたことを記している。本はあらゆる場面で救いになる力を持っていることも実感した。
最後に一つ言えることは、一人でも多くの人にこの本を読んで欲しいということ。手に取った瞬間、なにかホワ~っとしたぬくもりを感じたのは気のせいかな。そんな不思議な感覚もありました。きっと望めば、誰でも受け入れてくれる本なのだと感じました。
パワーアップした西さんの今後の作品も楽しみです。
私たちの先頭には、いつでも力強く風を切って歩く西さんの姿が必要なのです!
西加奈子プロフィール
1977(昭和52)年、イランのテヘラン生れ。エジプトのカイロ、大阪で育つ。2004(平成16)年に『あおい』でデビュー。翌年、1 匹の犬と5人の家族の暮らしを描いた『さくら』を発表、ベストセラーに。2007年『通天閣』で織田作之助賞を受賞。2013年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞受賞。その他の小説に『窓の魚』『きいろいゾウ』『うつくしい人』『きりこについて』『炎上する君』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『地下の鳩』『ふる』など多数。
(新潮社・著者プロフィールより)
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