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*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】夜が明ける:西加奈子

 

 

夜が明ける:西加奈子著のレビューです。

 

下へ下へ、地を這う

 

辛い小説だと前評判で何度も聞いて覚悟はしていたけど、やはりそれを超えていく痛みが何度も襲ってくる内容の小説であった。タイトルである「夜が明ける」ことを唯一の希望と思いながら、ただひたすら孤独で暗い道をテクテクと歩き続ける。そんな気持で読んでいた。

 

よく「見える景色が変わる」っていう。金持ちには金持ちに、貧乏には貧乏にしか見えない景色があり、それはなってみなければ決して見ることがない。

 

だから本書を読んで自分が登場人物たちの痛みや苦しみを理解できたかというと甚だ疑問が残る。書いている西さんご自身もその辺の戸惑いや葛藤があったようだ。「当事者ではない自分が書いていいのか、作品にしていいのか」と、自問自答されている。読者はもちろん、もはや作者である西さんですらそんな戸惑いの中にいる。

 

 

 

この小説に何度か繁華街を彷徨う鼠などが出てくる。貧困に苦しむ彼は、鼠と同じ位置から鼠たちの姿を追う。そういうことなんだなって思う。地を這うような生活って、鼠たちの表情まで見える位置まで、下へ下へと視線が下がることなのだ。地べたに寝るってことはそういうことなんだ。心身ともにボロボロになるってこういうことなんだ。

 

この国で今起きていることが詰まっている。貧困、虐待、過重労働、セクハラ等々、ニュースで毎日目にする問題だ。来る日も来る日も繰り返されるこれらの言葉に、ある意味ならされてしまっている自分に気づく。そして言葉ばかりで本当に苦しんでいる人の姿に靄がかかっている。そんな自分の生ぬるい部分に、熱湯を注いだのがこの作品だった。

 

あらすじ等は今回は割愛したが、「社会にある様々な問題を扱った小説」とひとくくりにしたくない作品である。これを読んだからと言って、弱者のことを理解が出来たとか、問題意識が高まったとか、そんなお行儀の良い感想は自分にはない。でも、何かぼんやりしていたものが刺激され、ヒリヒリした感覚は残っている。具体的にこれといった言葉はまだ見つからないが、それだけ深い内容であったのは間違いない。

 

最後に「執筆にあたり」という文章が巻末に小さく記載されている。その一番最後の行を読んで、西さんの強い覚悟と強い思いを感じた。

 

尚、この小説に関しての責任は、全て著者にあります。

 

やっぱり西加奈子は強い!筆一本で荒波に向かっていく後ろ姿が見える。わたしにとって西さんはそんな作家と言えるのだ。

 

メディア掲載

こちらの書評は、新刊JPに取り上げていただきました。

 

www.sinkan.jp