全員悪人:村井理子著のレビューです。
☞読書ポイント
気に食わないって思うことにもちゃんと訳がある
認知症になるとどんな症状が現れるのだろうか。徘徊とか暴力、暴言、被害妄想、物忘れ等々、ちょっとこわい症状はよく聞く。認知症のなかでもいくつかの種類があるそうだけど、なる人とならない人の差はどこにあるんだろう。人の脳はどういうメカニズムなんでしょうね。
と、いつも考えながらこういう小説を読んでいるわけだけど、そもそも小説を書いている方も、自身が経験しているわけじゃない。あくまで身内に罹った人がいたとか、介護職の経験を通してってパターンだ。本を読んだところで本当のところに辿り着けるわけではない。それでもやっぱり知っておきたいと思い、ついついこのジャンルの小説に手が伸びる。
本書は認知症に罹った女性が主人公。患者本人から見た周りの人々について語られている。タイトルの「みんな悪人」ってことで、当事者から見ると、夫、息子、嫁、ケアマネージャー等々、みーんなちょっと意地悪な人、理解のない人達に見えてしまう。
そこには本人にしか解り得ないことが潜んでいるわけだけど、やはりなにかが気に障るとか、違和感があるから大ごとになる傾向がみられる。
例えば、ずっと自分が主役でいた台所を知らない女性が使っていたら....。しかも、自分を差し置いて、家族の食事の準備をしている。なんだか乗っ取られた気分になるのも解る。ましてや、自身が認知症であることを認識してないわけだから、そりゃー違和感バリバリあるだろうし、悲しくもなるだろう。
おそらくその時その時の場面を、断面的にしか見てないからいろんなことが不可思議に見えるのだろうなぁと。夫のデイサービスに付き添う女性を見たら「浮気」っていう短絡的なことを考えてしまうのも、そこしか見えていないのだろう。
色々な小説で様々な認知症患者に出会ったけど、認知症患者の頭の中は本当に忙しく動いているものだと感じる。そこには現実と過去、妄想が常に混在している。中には自分が一番良かった時期を旅しているような人も居て、それはそれでちょっと幸せそうだなぁと思ったものだ。
本書のような場合は、やはり本人が一番辛いだろうなと思う。なかなか解ってもらえないもどかしさ、孤独感や疎外感なんかもきっと感じているだろう。自分の居場所がなくなりそうな怖さもあるだろう。そして何より、大事な人たちを傷つけてしまうことも。
「認知症は大好きな人を攻撃してしまう病なんです」という言葉が本書にあったが、誰も好きで攻撃しているわけじゃないんですよね。けど、現実は双方にとって本当に厳しいものだと感じます。
今のところ周りに認知症に罹った人はいないけど、覚悟はしておかなきゃなぁ。そして、自分自身も。引き続きこういう本を読んで、色々な角度から学んでいこうと思った。
【つなぐ本】本は本をつれて来る
こちらは施設に入った認知症の老人を描いたもの。一番自分が輝いていた時を行ったり来たり。良い時期を漂っている姿は、案外幸せなのかも?と思わされた話。