光の犬:松家仁之著のレビューです。
感想・あらすじ ある家族のアルバムを眺めているような小説
新作まだかな、まだかなと心待ちしていた松家さんの作品。松家さんの小説はタイトルだけ確認して内容はまったく知らないままいつも読む。
家族が入るお墓の話から始まった。.....ある家族の話らしい。家族が飼っている北海道犬もちょこちょこ登場はするけれど、.....どうも犬の話でもなさそうだ。うむ、やはり今回もタイトル通りにはいかないようだ。
北海道を舞台にした親子三代の話は、1901年から約110年間にわたる。そんな彼ら彼女らの日常を、50歳を超えた孫の始の目を通して描かれる。
時代をワープしながら当時の出来事が次々に明かされ、各々のキャラも判ってくるのだけれども、とりたて特別な話というわけではない。
親子、姉妹、夫婦、血が繋がっていようと、個々、性格も違えば、行動も異なる。そんな各々の心の裡や行動を描きながら時代はどんどん進んでゆく。
ただただ日常のことが淡々と描かれているだけなのだ。しかし、深い。なにか息苦しくもある。登場する人々、みんなどこかもどかしさがある。関係性も然り。
特に後半になると、父母やおばたちが80代に突入する。亡くなる者、認知症を発症する者、そこに生まれて来た時の回想シーンなどが入り混じり、人生とか生命といった文字があたまの中に浮かび上がって来る。
どこまで読んでも掴みどころがなく、結局最後まで傍観者でありながらも呑み込まれていた自分に気づく。
読後に本書のテーマ的なものを知りたくなり新潮社さんのサイトを覗いてみた。
━━━━生まれ、育ち、生きて、病み、死んでゆく――。
その瞬間、たしかにそこにあった生のきらめき。
嗚呼、まさに!ダラダラ感想を書くまでもなく、この2行に小説の全てが凝縮、表現されているなぁと膝を打った。
松家さんの文章はなんか落ち着く。それがなんなのかはいまだ解らないのだけど.....。ひとつ言えるのは透明感のある自然描写の美しさ。読者に美しい風景を目の前で見せているような臨場感を与えてくれる。特にフランシス同様、静かな雪の描写が好きです。
仕事系、恋愛系、そして家族の小説とそれぞれ印象的な小説を書かれている松家さん。掴みどころがない話が多いものの、いつまでも心に残るシーンが多い。下手したら部屋の様子とかも思い出せる。残像小説とでも言おうか。表紙までもがセットになって残るんだよなぁ~~。
そんなことより、早くも次が読みたいのである。