一心同体だった:山内マリコ著のレビューです。
☞読書ポイント
まさに私たちは一心同体だった!?
どんな内容なのか全く知らずに読み始めた。途中まで読んでこれはなかなか面白い試みかもと。本書の意図を理解し始めると、読むペースもぐんとアップした。
それにしても私たちは年代年代で、小さな社会をいくつも経験してきたものだ。10代は小学校という社会で、付いたり離れたりする結構露骨な友達関係があったり、大学生であれば、サークルという社会で将来が見え隠れするような日々を過ごしたり。そして、社会人になって本格的に仕事をし、様々な理不尽や格差などを思い知ったり。
そんな誰もが経験する細かい細かいステップを描いたのが本書。登場するのはどこにでも居そうな女子たち。もしかしたらそのなかに「わたし」も居るかもしれない。連作短編集で、誰かと誰かが少しずつロンド形式で繋がっていく。
人間関係の話に留まらず、その時代その時代で話題になったことや物が登場する。忘れかけていることが大量に出て来るので、懐かしいやら、そんな前のことだったのか?などと、時代を振り返りつつ楽しく読み進めた。
「わたしたちの平成30年史」ということで、昭和生まれの人も同じように楽しめるけど、山内さんと同世代の方はさらにいろいろなことに共感できるのではないだろうか。(ちなみに山内さんは1980年生まれです)
友達、仕事、結婚、出産、子育て、と続く一連の流れは、いつでも女性たちにとって大きなテーマ。人生のステージで付き合う友達が変化したり再会したり。とにかく人生前半は目まぐるしく環境が変化する。
本書では10代、20代、30代と、一つ一つの時代を丁寧に束にしてゆき、40代でその束をまとめる。そして彼女たちの声がどんどん強く大きくなり、力強さが増す。まさに炸裂した感じなのです。
どんなに平凡な人生でもこうして生きてきた足取りを辿ってみると、日々いろんな出来事に揉まれながら生きて来たことが解る。些細なことでも積み重ねてひとりひとりの人生に織り込まれていくものだなぁ。....なんて感慨深いものがあったわけだけど、彼女たちの人生はまだ半ば。この先どんな道が続いているのか?「一心同体だった」の「後編」を読んでみたい。
最後に男性が手に取りにくい表紙とタイトルかもしれないけど、ぜひ一度この本を読んでもらいたい。「おんなの世界はなぁ~」なんて知った顔して言う男性がいるけど、どこまで知っている?と訊ねたい。これを読んだら驚くほど具体的にその実情を知ることができるはず。おんなの世界は奥深い。ここに来るまでみんないろんな荒波に揉まれてきたということが、痛いほど感じられるに違いない。
最後に本書はいろんな場面で突き刺さるような鋭い言葉が登場する。なかでも印象的だったのは、
団欒における圧倒的な疎外感。お茶淹れマシーンとしての私。「お~い、お茶」がただの商品名でなかったことを私は知る。
結婚し、家族の世話をする女の姿を映し出す一文にゾッとした。これは昔の話ではい。平成時代のお話なのだ。
【つなぐ本】本は本をつれて来る
男性社会もまた一括りに出来ない複雑さがあるのだということを知れる一冊です。