アズミ・ハルコは行方不明 :山内マリコ著のレビューです。
(本が好き!の献本書評です)
感想・あらすじ 「やりますか、一応」・・・か。
この国の若者の話だけど、どこか異国の人々の話のような…そんな錯覚が起きたのも、私がもうこの小説の中に出てくる若者たちの生活とあまりにかけ離れた日常を送っているからなのかも知れません。こういうのもジェネレーションギャップというのだろうか?
だからと言って興味がないわけでもない。小説に出てくる人物に共感できるかどうかは別として、自分の若い時と照らし合わせると、かぶる部分が多少なりともあるからだ。
また、決して退屈な気分にならなかったのは、本書のテンポのよい文章、展開に面白さを感じたからだろう。
「やりますか、一応」
「…ですね。やっときましょう」
掃除をやっておくとか、なにかの作業をやっておく…じゃないのです。この会話、男女がセックスをするかしないかのちょっとした押し問答後、最終的にお互い確認するシーンの会話なんです。
この小説に出てくる若者たちは、常に淋しさを抱え、誰かと一緒に居ることに安心する。その誰かはとりあえず、今を埋めてくれる誰かなのです。それゆえに脆い人間関係。そして関係が消滅すると、彼らは自分を見失う。
特に若い女性のメンタルは脆弱で、全力で男性に飛び込んでは期待を裏切られ撃沈するというパターンを繰り返しボロボロになってゆく。この悪循環から脱する手だてはどこにあるのか…。
20代の若者たちの行動が事細かに描かれているのですが、どの人物も前述の会話に象徴されているような「とりあえず」や「一応」などという雰囲気に包まれている。
男を襲う謎の女子高生集団。夜な夜なスプレー缶で壁に絵を書き続けるユキオ、学、愛菜。そして、表題の行方不明者「アズミハルコ」はどんな人物でどこにいるのか?
さまざまな事件を巻き起こしながら話が展開していく設定ですが、この世代ではない私にとって、展開はあくまでもBGMのようなものにすぎず、どちらかというと、彼らの内面の方がずっと気になって仕方がなかったです。
「ガールズ小説」と帯に書いてあったけど、若者全般を描いた作品に思えました。
年代によって捉え方が大きく変わる小説なのかも知れませんね。
会話が妙にリアルです。スマホ・SNSなど、現代必須アイテムを自在に活かしたまさに、「今」な小説でした。
※表紙の絵も素敵ですが、カバーを外すとピンク+黒のちょっとオシャレな装丁で、女子心をくすぐります。
文庫版