マリリン・トールド・ミー:山内マリコ著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ
前半はコロナ禍、一人暮らしをしている大学生の孤独を描いた話なのかな~なんて思って読んでいた。そしたら、その女子大生にマリリン・モンローから電話がかかって来るという、ちょっとファンタジーな内容へと。孤独が幻想を呼んだのか。はたまた孤独と孤独が共鳴して繋がったのか。
前半だけでも「おっ?」「は?」「え?」となり、ちょっとつかみどころない展開に戸惑う。一体なんでマリリン・モンローが出て来る必要があるのか?最初はまったくもって解らなかったわけだけど、読み進めて行くうちにマリリンの存在は、この物語でとても重要な役割があることに気づかされます。
意外な展開から後半へ行くほど山内さんの描きたかったことが解ってくると、ものすごく凝った作りになっているなぁと嬉しくなる。何層にもなっているものを一枚一枚剥がしていくような面白さが出てきます。
学生たちの軽快なトークがあったかと思えば、きっちりと社会問題にも斬り込んでいる。さらに、あのマリリン・モンローの生涯を知れるという収穫も。
「マリリン・モンロー=セックスシンボル」と表現をしたり、風でめくれ上がったスカートを抑える姿のマリリンを思い浮かべる人もいるだろう。でもマリリンの生い立ちは?どうやって女優になったの?彼女の素の姿は?となると答えに詰まる。そんなマリリンの生涯を、主人公の卒論を通して私たちは知ることがで来るのです。
マリリンモンローを知るということは、当時のアメリカの男性優位の社会、ジェンダー差別、モラハラ、セクハラ、DV、などの問題は避けて通れず、いかにハードな時代に彼女が身を置いていたかということが解る。華やかな世界とのギャップ、自分が持っていたイメージとのギャップがそこにあり、殺伐とした気持ちになる。
卒論を書き終わった主人公の気持ちは徐々に外へと向かう。それはコロナ禍という孤独で寂しい時間から抜け出すかのごとく羽ばたいていく清々しさがあった。若いうちにしかできないことを存分に楽しんで!時間には限りがあるからねと、親心のような気分で読了。
個人的には現在の大学生活にも興味津々でした。コロナ禍という特殊な時間を過ごした学生の話ではありますが、自分の大学生活とかなり違うものだと。とにかくITがめざましく進歩したことによって、学生生活も随分変わったんですね。オンラインで授業が出来るなんて時代が来るとは思わなかったし、友達ともスマホでジャンジャン連絡を取り合えたり、就職活動も随分とスマートだし。こうして振り返ってみると自分がいかにアナログな世界にいたかが分かる。今思うとかなり不便でもあったわけだけど、逆にあれはあれで良かったとも思えた。
ということで、本作は何層構造にもなっているものを一枚一枚剥がしていくような面白さがあった。マリリン・モンローにさほど興味がなかったけど、こういう形で深く知ることができて良かったです。お得感♪
山内マリコプロフィール
1980年富山県生まれ。著書に『ここは退屈迎えに来て』『アズミ・ハルコは行方不明』『あのこは貴族』『選んだ孤独はよい孤独』『一心同体だった』『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』など。(新潮社・著者プロフィールより)