おいしいごはんが食べられますように:高瀬隼子著のレビューです。
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感想・あらすじ 「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」
職場のストレスと言えば大半は人間関係にあると聞いている。そりゃそうですよね。本当はものすごく嫌いな相手でも「仕事だから」と諦め、普通の顔して日々接しているわけだから、やはりストレスが溜るのも無理はない。
大半の人々がダメだと思う人については、気の合う人と愚痴ったりしてストレスを発散したりできるわけど、厄介だなって思うのは、「なんとなくダメ」って人っているじゃないですか。決定的な原因はないんだけど、なんか見てるだけでもイライラするというか....。そういう人と接するときのあのモヤモヤした感情。みんなはそうでもなさそうだし....なんて人。これに対してはどう対処すればいいんだろう。
前置きが長くなりましたが、本書はそんな人間のダークな感情の動きが描かれている。ドロッとした感情にどこか共感している自分も居たりしてちょっと怖くなる。
そこそこ人間関係をうまくやっている二谷。仕事をこなす頑張り屋の押尾。そして、早退の多い料理上手の芦川。この三人を中心とした仕事と恋愛と人間関係を描いた小説なのですが、高瀬さんご自身、OLをされているだけに、細かいやり取りや会話が妙にリアル。高瀬さん、職場で感じたことを逐一メモっていたのではないのかと思うほど臨場感がある。
で、この3人。実は二谷と芦川は付き合っている。そこに押尾が、
「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」
なんて、ことを提案する。もうこの時点でかなり歪んだ世界を感じずにはいられないのだが、なんとなく押尾の気持ちが解ってしまう。というのも、芦川はしょっちゅう体の不調で早退をする。上司も周りのパートさんも理解を示し、快く早退を承諾。
芦川はそんなみんなにお詫びにと、手作りのお菓子を持ってくる。そのお菓子が職場で大好評となり、様々なお菓子を持ってくるようになる。
けれども、実際、早退は迷惑な話で、芦川の仕事を補わなければならない人が居るわけだ。そういうことを含めて見ていくと芦川ってなんだよな...と、意地悪な気持ちになる。具合が悪いから仕方がないわけだが、「またかよ」と思ってしまうのも人間。こういう些細な話って大なり小なり職場では存在するから、思わず押尾に肩入れしてしまう。
また、食べることに興味がない二谷と、料理上手な芦川が付き合っているわけだが、二谷は手料理など全く興味がない。むしろ芦川の作るものに嫌悪があるものの、そんなそぶりは見せずに一緒にいる。この関係も相当歪んでいる。
さて、これらの人間関係は一体どこへ向かって行くのか?タイトルのほんわかしたムードとは大違い。結構、ドロッとしています。というか、職場って、ゴミ箱に捨てられたもの一つとっても、人間ドラマが見えてしまう場所なんだなぁ....と。お土産とかのお菓子を配るのもちょっと怖くなって来た。そんな余韻を残す恐ろしい作品でもあった。
本作品はアメトーーク!読書芸人でも紹介されました。
番組で紹介された本はまとめてありますので、ぜひ~♪
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ある日突然、夫がお風呂に入らなくなった。....という、設定からしてぶっ飛んでいます(笑)こちらも芥川賞の候補作でした。www.readingkbird.com