文豪たちのスペイン風邪のレビューです。
☞読書ポイント
みんな、みんな、いまの私たちと一緒
シリーズ「紙礫」は、いろいろなテーマで出版されるアンソロジーで、このシリーズで初めて知った作家も数知れない。とても雰囲気のあるアンソロジーで、取り上げられているテーマもいいんですよねぇ。とは言え、ここ最近新刊のチェックを怠っていたものだから、皓星社さんのサイトを見てプチパニック(笑)いつの間にか、シリーズがどんどん進んでいるではありませんか。
ということで、旬のテーマとでも言おうか、こちらの一冊から再び読んでみようと手にっ取った。
約100年前に流行った「スペイン風邪」。文豪たちがその時、どんな暮らしをしていたのか、とても身近に感じらさせられる話が多い。特に志賀直哉や菊池寛に関しては、感染予防を徹底ぶりが窺える。神経質すぎともいえる徹底ぶりは、家族だけではなく家にいる女中さんたちにまで目を向ける。
思うに作家と言う職業、想像力が勝負な世界なだけに、この得体の知れない病気に対しても、かなりの想像力が発動させたのではないだろうか。「もしも」の場合に備えての警戒心は、人間関係をも壊しかねないくらい厳しいものだったりする。それもこれも家族と自分の身を守るためではあるんですけどね。
スペイン風邪に関する確かな情報が、当時どのくらい庶民に届いていたのか分からないけれども、間違いなく情報も医学も今よりは乏しかっただろう。そんな中での恐怖心は相当なものだったと思う。
志賀直哉は再三注意したにも関わらず、出かけた女中に疑いの目を向けイライラしているし、菊池寛はすでに流行は終わって周りの人々が皆マスクを外しているのに、頑としてずっとマスクを外さないでいたり、内田百閒先生の一家は、本人を含め家族全員罹患したため、看護婦を雇って金欠になったりと、まぁ、みなさん色々苦労していたようだ。
面白かったのはやっぱり谷崎のおっちゃん!「へぇーこういう作風もありなんだ!」と、感動。読み出したらあっという間だったという面白さ。ミステリーと推理小説が合体したようなもので、こういう谷崎作品を読むのは初めてかも。にしても、いろんなジャンルの小説が書けるんですねぇ。
与謝野晶子の文章からが一番当時の様子を知ることが出来、「私たちの今の状況と同じじゃない!」ってことがよくわかる。予防注射や薬の話などはとてもリアル。
「自己を衛ることに聡明でありたいと思います」と言う言葉が印象的。
永井荷風は3行くらいの日記形式。今の時代生きていたら、きっとTwitterで呟く荷風が見られたのではないか?と思うほどTwitter向きな感じがします(笑)
コロナがなかったら、これらの話はそれほど身を乗り出して読むこともなかっただろう。けれども、私たちはこれらの感染症の恐ろしさを身をもって知ることになった。だからこそ、当時の文豪たちが日々感じていたことに頷ける部分がたくさんある。
時間を超えて彼らと同じ体験を私たちもしているのかと思うと、何かとても不思議な感じがします。ここからまた100年後、今度は私たちが経験したことを、未来の人々が読むことになるのかな....、なんてこともふと思いました。
【つなぐ本】本は本をつれて来る
こちらは、ペストと誘拐の話です。「ペストと誘拐?」ってなりますよね。なんのつながりもないようなものが、こんな話になってゆくなんて!という、医療ミステリーです。コロナ前に作られた作品ってとこがまたすごい。