Web Analytics Made Easy - StatCounter

うずまきぐ~るぐる 

*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】夢見る帝国図書館:中島京子

 

 

 夢見る帝国図書館:中島京子著のレビューです。

夢見る帝国図書館

夢見る帝国図書館

 

 

図書館の歴史を辿りながら、思い切り本の世界に浸ろう!

 

なんだろう、読んでいることの幸福感を何度も感じさせてもらえた心地の良い一冊であったなぁ。多分そうさせたのは、この本はどこのページに居ても、図書館や本にまつわる興味深い話がいっぱいで、そうした話を知ることの楽しさを、特に本を愛する人々に存分に感じさせてくれる作品であると思うのです。

 

遠い昔から今の時代へ。まるで時間旅行をして来たような、そう、この本自体が「夢見る」といった読後感がありました。

 

本書は図書館の歴史を辿る内容ではあるけど、その見せ方が実に巧みなんです。明治政府が日本初の「書籍館」を開館したところから図書館は歴史を刻んでいくことになるのだが、金銭面、本の不足など、常に問題を抱えている。いわゆる「図書館の歴史は金欠の歴史」ということがよく解る。

 

そんななか、足繁く図書館に通い、本に夢中になっている文豪たちの姿が、まるで映写機から映し出せれるかの如く描かれている。樋口一葉、宮沢賢治、幸田露伴、宮本百合子、吉屋信子、また、図書館と深く関わりのあった永井荷風の父・永井久一郎等々、錚々たる文豪たちのエピソードが語られる。何といっても、樋口一葉に恋をしている図書館の物語はユーモアがあり、中島さんのちょっとした遊び心がとても印象的。

 

やがて戦争、関東大震災に巻き込まれた風景が描き出される。近隣の動物園の動物たちの悲劇の話も挿し込まれ、物語はさらに深みを増してゆく。

 

 

 

さて、本書は単なる図書館の歴史を描いたものに留まらない。作家志望の「わたし」が上野公園で偶然知り合った年上の喜和子さんの生涯もちょっとした謎解きの雰囲気を持って展開される。

 

不思議な雰囲気を持つ喜和子さんは「わたし」に「図書館が主人公の小説を書いてよ」と頼んでくる。そんな喜和子さんはあっけなくこの世を去ってしまうのだが、「わたし」は喜和子さんと関りのあった人々たちから少しずつ情報を集めることによって、彼女の波乱万丈な人生を知って行くことになる。

 

図書館の話と喜和子さんの話が交互に語られ、やがて現在に繋がって行くという展開になるのだが、その流れに無理なく実に上手いのです。中島さんの作品はこうした昔と今をクロスさせながら進む小説、例えば「FUTON」や「女中譚」もそうであるけど、本当に楽しい作品になっている。今回その特長がよく出ていて素晴らしい作品だなぁと感じずにはいられません。

 

自分にとって図書館はなくてはならない場所であるのですが、日本の図書館のはじまりについては全く知らなかった。昔の文豪たちが通っていたように、今を生きる私たちも図書館に通う。なかなか順番が回ってこない!とか、多少の不満はあるものの、こうして自由に本が読める有難さとを、しみじみ実感したのであった。

 

さて、舞台となった帝国図書館。現在は国際子ども図書館として建物も現役で残っている。明治期の洋風建築として堂々たる雰囲気を持つこの建物で読書する気分はどんなものだろう。様々な時代を経て、今も残ってくれていることに感謝しながら、いつか訪れ、隅々まで見学してみたいと思う。