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【レビュー】マスク スペイン風邪をめぐる小説集:菊池寛

 

 

 マスク :スペイン風邪をめぐる小説集:菊池寛著のレビューです。

マスク スペイン風邪をめぐる小説集 (文春文庫)

マスク スペイン風邪をめぐる小説集 (文春文庫)

  • 作者:寛, 菊池
  • 発売日: 2020/12/08
  • メディア: 文庫
 

 

スペイン風邪、そのときの菊池寛と世間の様子は今の私たちそのもの

 

スペイン風邪が流行った時の日本は、今のコロナの時代とどう違っていたのだろうか?本書の一編である「マスク」は、当時の様子がよく解り面白かった。

 

我々もコロナという憎き存在と戦い始めて2年目に突入し、やや冷静さを取り戻しつつあるものの、依然として消えないコロナに怯える日々は続いている。私は小心者だし、家族に高齢、しかも疾患持ちが居るので、緊急事態宣言が発令されようが、解除されようが、ずーっと自粛生活が続いている。

 

コロナが怖い怖いと言いながら、旅行する人、出歩く人、数人で外食をしている人などを見かけるけど、自分とものすごく温度差を感じる。一体この差は何だろうと考えて行き着いたのは「怖い」という言葉の先にある想像力の差なのだろうと。

 

コロナに感染するとどうなるのか?自分だけでなく家族、知り合い、そして日々の生活、後遺症、ひいては命が失われることも。その先の心配をすればするほど、怖さが大きくなることによって行動を控える。コロナで行動を徹底的に抑制している人とそうでない人の差はこの「想像力」の大きさがかなり影響していると思うのです。

 

 

 

前置きが長くなりましたが「マスク」の主人公はスペイン風邪にものすごく警戒し、怯えていた人物のひとり。おそらくこの主人公は菊池寛自身である。体格がよく太っていて、見た目は健康そうに見られたらしいのですが、実は心臓や肺が悪い。

 

日々の死者の数に怯え、自分の外出だけでなく、妻や女中までも外出を控えさせていた。マスクは当たり前、ガーゼをたくさん重ねたり、うがいも頻繁にしたりと、うんうん、一緒一緒、とちょっと微笑ましくなった。それにしても、感染対策は今も昔もほとんど変わってないことに驚いた。

 

菊池寛は持病があったということで、スペイン風邪に対する怖さはかなりあったと思う。ましてや今みたいに次々情報が入ってくる時代ではない。医者から聞いた話などをもとに想像を膨らませ、怖さとの闘いの日々だったのだろう。

 

幸い菊池寛はスペイン風邪には罹ることなく済んだようだ。しかし、狭心症で59歳と言う若さで急死。あれだけ感染予防に気をつけていた先に待ち構えていたのは、あっけない急死かぁ。人生いろいろだなぁと思わずため息が。

 

本書は感染症の話を集めた短編集だと期待していたのですが、そうではなかったです。とは言え、「身投げ救助業」はとても印象的。川で自殺した人を長い竿で助け出す老婆の話なのですが、実話っぽい?いや、作り話なのか、曖昧さがまた興味をそそるところ。

 

ということで、時代は巡るもんですね。100年前と今を比較しながら、とても貴重な話を読んだ気がしました。