朔が満ちる:窪美澄著のレビューです。
☞読書ポイント
壮絶な描写に圧倒されっぱなし。けれども救いも待っている。
読むのが痛い、つらい、苦しい。窪作品はこれらを覚悟して読むのですけど、今回はさらに拍車がかかったとでも言おうか。とにかく前半からかなりの痛みを伴う話で絶望した。窪さん、飛ばすなー。容赦ないなー。
父親が飲むと暴れる、家族に暴力をふるうという壮絶なシーンが続く。この描写が本当に迫力があるというか、リアルすぎて怖くて怖くて身震いがするほど。母、妹、そして主人公の史也。誰にも相談することなく恐ろしい日々を過ごしている。やがて、史也は我慢の限界に達し、母と妹を守るため、斧を持って父親に立ち向かった。史也は13歳の時だった。父親は助かったが、その後寝たきりになる。
こんな暴力夫から子供と一緒に逃げ出そうとしなかった母親。事件後も父親の世話をする。そこに嫌悪感を持つ子供たち。よくあるDVの共依存というものでしょうが、子供にそんな関係が解かるわけもなく、結局、事件を機に、史也は伯母の家で生活することになる。
時は流れ、東京でカメラマンの助手の仕事をしている史也。ひょんなことから出会った「梓」という女性と関りを持つようになる。やがて、恋愛関係に発展するのだが、梓もまた、幼い時に親に捨てられ、施設で育ち、そして医者の養女、看護師になったという経歴がある。養女になった先で、義父に結婚まで決められた梓は家から逃げ出す。
親に捨てられた梓と、親の虐待に苦しめられた史也。梓は出会った時からそんな「匂い」を嗅ぎ取り、史也の家に転がり込んだ。そこからは、互いの辛い過去に向き合い、一歩一歩、二人は関係性を深めていく。
過去の出来事を受け入れることは難しい。父が死んで終わりを迎える時の史也の気持ちが壮絶だった過去を物語る。それらの憎しみや葛藤に向き合いながら、史也と梓、自分たちで手に入れた「やすらぎ」は何ものにも変え難いものになる。
暴力というものは誰も幸せになれない。本作に出てくる警官も、史也の家族に問題があることを知りつつ助け出すことができなかった。警官は後悔の念をずっと持ったまま生きていたことが終盤に明かされた場面が印象的でした。
最初はどうかなって思っていた。しかし、難しいことだけど理解者ができるってことの心強さや、素晴らしさが読者にも実感できる作品であって良かった。
とにかく前半は息苦しいを通り越すような苦しさがあった。窪さんの得意とする部分でしょうが、本当にすごい筆力だった。というか、本当、どんどんナイフの先が尖っていくような感じがする窪作品。一体どこまで行くのだろう....と、期待と怖さで震える。
【つなぐ本】本は本をつれて来る