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【レビュー】雲を紡ぐ :伊吹有喜

 

 雲を紡ぐ :伊吹有喜著のレビューです。

雲を紡ぐ

雲を紡ぐ

 

 

 

小説らしい小説って言うのも変ですが、思い切りその世界に入れてもらえた作品

 

 

この2か月、本を読んでいてもコロナのことで気忙しく、なんとなく読書に集中できない日々だったが、ようやく元来のペースを取り戻せたかな?ってくらいのめりこんで一気に読めたのがこの小説。

 

伊吹さんの長編小説は「なでし子物語」のシリーズ、「彼方の友へ」を読みましたが、なぜだか時折それらの小説に登場した人々を振り返ることがある。小説は終わっても、どこかにほんわりと残っているあの人たち。濃い口の小説ではないけれど、確実に心に刻まれるような素敵な作品を創っている作家さんなんだなとしみじみ思う。

 

「雲を紡ぐ」は大きな意味で家族の物語。本書に登場する人々は大人も子供もこれまで歩いて来たところから道を失い、この先どうしたらよいのかと迷走している。そんな時間の中にいたからこそ見えて来る親子関係、夫婦関係の歪み。

 

物語は少しずつ過去を振り返りながら、大事なものに気づき、一人一人が納得いく形で次のステージへ向かう。

 

そして、迷える人々に寄り添うように登場する「時を越える布・ホームスパン」は、 羊毛を染め、紡ぎ、織りあげられたもの。

 

主人公の美緒は学校でいじめにあい不登校になる。「ライナスの毛布(安心毛布)」のように、美緒は祖父母が赤ちゃんのときに織ってくれたホームスパンのショールを今でも大事にしていて、心のよりどころにしていた。しかし、ある日、そのショールを母が奪い取ってしまった。

 

これを機に、美緒は父親方の祖父の工房がある岩手県の盛岡市に家出をしてしまう。美緒は祖父や親戚の人々とそこで過ごしながら、徐々に心を開き、いわば自分探しをする。ホームスパンを習いながら祖父と暮らす毎日は静かで穏やかなものだった。一方、美緒の両親は、互いの歯車がかみ合わなくなって来て、離婚目前、家庭内別居状態へ。

 

 

 

とにかくみんながみんな暗いトンネルの中にいるような状態なんです。そんななか、美緒の祖父の包み込むような言葉が、我々読者にとっても何か救いでもあったわけだが、その祖父も高齢であり、この先長くないことを予感させられる。

 

その祖父と美緒の父親との確執も浮かび上がり、なんとも切ない過去の話も登場する。祖父がずっと捨てられずとっておいたものを見た時の息子のシーンに思わす涙。また、祖父と祖母の夫婦関係もねぇ、切ない。

 

伊吹さんの作品ならではの個々が背負っている過去や痛みが、大きな切なさになって影を落とすわけなんだけど、これが本当じわじわ来るんです。

 

さて、人々の生活のなかに、時折、盛岡の町や店の様子が登場するですが、それが本当に素敵。ちょっと住んでみたくなるような場所なんです。パン屋さんやカフェ。そしてちょっと歩けば自然と触れ合える。ゆったりした町の風景がとても印象的でした。店舗名も実名みたいです。探してみたら、お店の紹介がされていました。

『雲を紡ぐ』の舞台となった盛岡で、著者が取材中に見つけたオススメカフェ5選+番外編 | 特集 - 文藝春秋BOOKS

 

ということで、はじめは悩める少女の話だと思っていたけれども、実は大人も同じように人生を模索しながら生きていることが解かる。そして、家族が再生してゆくのに必要な時間がここにはあった。

 

美緒の葛藤、母親の葛藤、父親の葛藤、祖父の葛藤、祖母の葛藤。どの人の葛藤も歯がゆく、そしてヒリヒリとしたものが伝わって来て息苦しくもなった。言葉が凶器になることも、そして言葉で癒されることも、本書を通して深く実感する。

 

とても良い作品でした。小説らしい小説って言うのも変ですが、思い切りその世界に入れてもらえた作品だったなぁ。盛岡も行きたいし、ホームスパンを素手で触ってみたい。そして、福田パンも食べたいし、小説のなかの人々が行ったカフェも行ってみたい。いろんな余韻までもが楽しめた一冊でした。

 

ホームスパンとは

家で(ホーム)羊毛を洗い、紡ぎ、染め、織る(スパン)ことをいうのだそうです。