雪の名前 :村山由佳著のレビューです。
こころは人によって救われる
「風よ あらしよ」という超長編を書かれて話題になっていたのはつい先日のこと。しばらく新刊はないかな~なんて思っていたら、すぐに次の作品が登場。やぁー、すごいぺースですよね。文学賞の審査員やラジオのお仕事や取材、そして執筆活動と精力的に動き回る村山さん。締め切りに追われている状況はTwitterで拝見していたけれども、まさかこんなにも早く次の作品に取り掛かっていらっしゃったとは!売れっ子作家さんってスゴイなぁとひたすら感心してしまいました。
ということで、本作は「風よ あらしよ」から、ガラッと雰囲気が変わります。扱っているテーマはいじめや登校拒否と言った少女の繊細な心を描いた作品で、非常に重いものではあるのだけれども、全体的な作品のムードはとてもクリーンで、嫌みのない作品でありました。
それゆえ中盤まで言葉を変えれば、ちょっと退屈でなかなか話が進まないというか、こちらのページを捲る手も止まりがち。しかもラストもなんとなく想像ができてしまう感じがちょっといつもと違う。
内容は仕事を辞めて田舎暮らしを決意した父と、学校でいじめにあった小5の娘が、曾祖父母のいる長野県で新生活を始めることに。母親は仕事もあり田舎暮らしは無理そうだと、単身で東京に残ることになった。
長野で父は畑仕事や納屋カフェ」を作るという新しいことにチャレンジするのことに意欲的だれども、娘の雪乃は新しい学校に行くことに後ろ向きのまま。大人たちの仕事を手伝ったりしながら日々を過ごしている。
本筋はこの雪乃の傷つき、冷え固まったこころをどう溶かしていくかということにある。両親、曾祖父母、近所の大人たち、そして、近所の子どもたち。これらの人々の交流によって徐々に変化していく雪乃ではあるけれども、田舎社会の手厳しい人間関係なども描かれている。それは子供だけでなく大人たちの間でも難しいものがある。
色々問題は起こるけれど、それでも人は人に救われるということが伝わって来る作品で、後半へ行くほど登場人物たちの感情が露わになり、ひとりひとりの想いが感じられ温かい空気に変化していく。特におばあちゃんの優しさが沁みる!雪乃の気持ちも雪解けが近い。
展開的には「雲を紡ぐ」とよく似ている。あちらは高校生だったのでなんとなく違和感がなかったのだけれども、本作は小5の女の子。小5の雪乃の思慮深さや考えがとても大人と言うか、自分が小5の時ってもっと子供っぽかったよなぁと。今の小5ってこんな感じなの?大人だなぁ。
ということで村山作品としてはちょっと物足りなさを感じないでもない。しかし、読後感もよく綺麗にまとまった作品であると思いました。
次は黒い村山作品を期待してます!