イギリス海岸―イーハトーヴ短篇集:木村 紅美著のレビューです。
「行くぜ。東北!」という気分になる風景描写が美しい小説
タイトルからイギリスの話だとばかり思っていた。
が、読んでも読んでもイギリスは登場せず。
やがて「イギリス海岸」は日本のとある場所に実存することを知った。
小説の中で初めて知る行きたくなる場所は結構ある。
本書にはこの「イギリス海岸」をはじめそういった気持ちを掻き立てられる場所が多く登場する。
ストーリー自体はむしろ平凡で淡々としている。
しかしなんだろう、この小説の持つ空気感が重くもなく軽くもなく肩の力を抜いて読めるような心地よさがある。感覚的にはよしもとばななさんの小説に近いものがあった。
登場人物の双子の姉妹を中心に、どこかで少しずつ繋がっている人々が断片的に登場するの感じも面白い。
宮沢賢治ゆかりの地、岩手県を舞台にした小説は、どこか旅情をかきたてる風景画のような描写です。
福田パン、イギリス海岸、光原社の中庭、小岩井農場、双子のサイロ、雪の浄土ヶ浜等々、どこも魅力的かつ小説の世界観に綺麗に溶け込んでいます。故郷の「福田パン」を二人の姉妹が東京で食べるシーンがとても印象的。
少しずつ登場する人々の糸が自然に繋がって行くような話でとりたて大きな展開があるわけでもなく静かに穏やかにラストを迎えます。
個人的には「盛岡」という土地の響きに気持ちを浮き立たせられます。
「イギリス海岸」は、近くまで行ったことあったのに、知らなかったのが悔やまれす。
あと、雪の浄土ヶ浜も見てみたいな~。どちらも、写真で見ると異国の雰囲気があります。
ということ「行くぜ、東北。」な気分になさられた1冊でした。