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【レビュー】飛族:村田喜代子

 

飛族:村田喜代子著のレビューです。

飛族

飛族

  • 作者:村田 喜代子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/03/14
  • メディア: 単行本
 

 

 この島はこの世の最後の楽園なのかもしれない

 

 

「飛族」というタイトルを見て、「村田さん、また飛ばすんだな」とニヤリとした私。それもこれも村田さんの小説はかなりの確率で飛ぶシーンが登場する。今回はどんな感じの浮遊感を味わえるのだろうか。

 

読みはじめて驚いたのは舞台です。村田作品と言えば山をイメージしていたけれども、なんと今回は「島」ではないですか。海のシーンが眩しく感じます。しかし慣れてくると島の描写がなんとも心地よい。そして村田さんは老人を描かせたら右に出る者はいないと言っても過言ではないほどその描写が上手い。老人の姿かたち、動き、発言の凄味、ふとした瞬間に垣間見る童心、年輪を重ねた老人の乾いた感じの描写がゾクゾクするほど上手い。本書はそんな二人の老女の姿と島暮らしの様子が鮮明に浮かぶ作品でありました。

 

 

イオさん九十二歳。海女友達のソメ子さん、八十八歳。もう一人海女仲間がいたのですが彼女は亡くなったばかり。かつて漁業で活気のあった養生島もイオさんとソメ子さんだけになってしまった。デンデラではないですが、老婆二人しか住んでいない島、大丈夫なのでしょうか?イオさんの娘は子育ても終わり、そろそろ母親と一緒に暮らそうと九州から説得しにやって来ます。

 

かつて栄えていたこの島も、今はすっかり静まり返り、定期船がやってくる程度。しかし、老婆たちは海で魚を採り、畑を耕し、いたってマイペースで暮らしている。

 

 

 

無人島も多いこの界隈、近年では国境を越え、密漁や密航者の心配も絶えない。治安の心配だけでなく、台風などの自然災害も多く、老朽化した家も心配だ。

 

現実的な厳しさを教えられる一方、海女の話、島での生活、葬式などの風習等々、興味深い話が登場する。そして、そして、なによりも印象的なのは、この島にやって来る「鳥」の存在だ。

 

鳥たちは島に来るだけでなく、夢のなかにもやって来る。かつて海で亡くなった人々が海鳥になって自分の近況を知らせにやって来る。この鳥たちが登場することによって、またしてもこの世とあの世の混沌とした世界に誘われてしまうのである。でも、今回はなんか楽しい。亡くなった身内が鳥になって会いにくるなんて!

 

何もないところだけど、鳥も、死んだ人の魂までも境界を越えて自由にやって来る島。
この世ともあの世とも言えない曖昧な場所、海で亡くなった人々に守られての生活は、だれがどう説得したって、老婆たちにとって離れられない場所であることは明確である。迎えに来た娘もそれを感じ、しばらくはこの島に留まることにする。

 

「鳥になりたや」。
今が一番と思える幸せの中に居る老婆たち。
いつかここから海鳥になって飛び立つことが彼女たちの夢なのだろう。
そのために祈り、踊る。

 

ラストシーンの老婆たちの姿はちょっと不気味でちょっと滑稽。

彼女たちを遮るものはなにもないと感じさせられる描写は秀逸です。

 

村田さん、一貫としてこの世とあの世の曖昧な世界、老人、夢、飛ぶ、という事にこだわって作品作りをされているなぁ。もう本当気持ちいいくらい貫いていらっしゃる。同じ世界観なのにどの作品も個性的で印象に残るものばかり。ますますこの作家に思い入れが強くなった自分がいます。