神様の暇つぶし:千早茜著のレビューです。
狂おしいほど痛く切なく。生涯忘れられない恋とは。
読み終えて2日後にして尚も余韻に浸れるという「神様の暇つぶし」は、これまで読んで来た千早さんの作品の中で一番好きなものになった。
読む前からこう書くと、先入観を持たれてしまうかもしれませんが、雰囲気的には川上弘美さんの「センセイの鞄」という作品の路線に似ています。でも、こちらの主人公の女性は、もっともっと若く、恋愛下手で、恋だの愛だの知らないがゆえの潔癖な部分や、不器用さが露わに描かれていて、その想いが狂おしいほど痛く切なく映る。
主人公は20歳の大学生・藤子。大柄で容姿にコンプレックスを持つ藤子は、唯一の家族である父親を亡くし、実家で一人暮らしをしている。彼女は恋愛なんて自分には関係がないものと思っていた。
彼女が恋した相手は、恋愛上級者でもなかなか太刀打ちできない不良男性・廣瀬全。藤子の父より年上で、有名カメラマン。ご近所さんなので藤子のことを子供の時から知っている。そんな全がある日、血だらけで藤子の家にやって来るところからはじまります。
やがて二人は徐々に距離を縮め、藤子は彼に恋をする。全はぶっきら棒でミステリアス。そのくせ、面倒見がよかったりで見どころが多い。最初は訳が分からない男だと思っていていたけれども、なんだかこっちまで気になってしまう魅力ある人物。
・・・なんて書くと、普通によくある恋愛に見えてしまうかもしれませんが、藤子の心の動きや、気持ちのぶつけ方等々、痛くて苦しくて、でも傍に居たいという気持ちが文字からあふれ出て来る感じで、こちらまで息苦しくなるほど。全身全霊で恋をしている気持ちや切なさが猛烈に迫って来る。グッとくる場面が何度もあった。
この物語は後半に行くほど刹那的な雰囲気が充満していく。二人が愛し合うシーンに至っては、刻々と別れの気配を感じずにはいられない。愛情が深まれば深まるほど、何かが擦り減って無くなっていくような・・・。
その不吉な予感は容赦なく藤子に降りかかる。
藤子にとってもう一人、大事な存在である大学の同級生の里見くん。
彼は美形で女性にモテるのだが、実はゲイ。そんな彼と程よい距離感で、互いの良き理解者として寄り添っていたのだが・・・・。こちらも悲しい結末を迎えます。
ふぅ・・・・。
藤子と全。戻りたくなるとか懐かしいとかそういう感情とは別に、こういう恋愛って、一生心に留まるものになると思うのです。どんなに年を取っても、あの時存在していた全てものに、時々狂おしくなるほど抱きしめたくなるような恋愛。
いろんな意味で全が藤子に残したものは大きく、罪だなぁと思う。
この作品のレビューは書けば書くほど、ふたりの恋の本質から外れていきそうだなぁと、怖さすら感じています。だから、これ以上はもう書きませんが、自分にとって数ある恋愛作品のなかでも、心に残るものになったのは確かです。