月と雷:角田光代著のレビューです。
もしあの時…が終始頭の中をよぎる小説
もし、あの時あの人と関わっていなければ、自分の人生どうなっていただろう?なんてことを、ふと思ったりする時期が誰にでもありますよね。
特に、仕事、結婚など人生の節々に振り返った時、あの時の「もし?」がひょっこり顔を出して来ます。
この「もし?」と「普通とは何か?」を終始問われるのがこの小説。普通の家族・家庭・健全な恋人関係・まっとうな母親像とは一体なんだろう。
放浪癖のある母親。意味もわからずあちこち連れまわされて育った智。そんな母子がある日突然、泰子の平和だった家庭にやってくる。子供であった泰子は、母親が出て行ってしまったことはこの母子のせいと感じているが、寝たい時に寝て、食べたい時に食べて、学校に行かなくても叱られないこの女と息子と奇妙な生活に馴染み、人生の一時を過ごすことになるが、やはりこの親子は次の居場所に向かう。
やがて時が過ぎ、離れていた3人が再会することになる。
あの時子供だった2人は結婚適齢期に入っている。
この小説で個人的に注目したのはこの母親の奔放な姿。飼い主がいつまでも定まらない野良猫のような不思議な人で、若者2人よりむしろ彼女の生き方につい目がいってしまった。
その息子である智も、やはりどこかこの母親に似ていてちゃらんぽらんなのだが興味が惹かれなかったのは何故かなぁ…。
再び一緒に暮らし始めるこの三人はどこか依存しあって生きているようにも見える。
普通を願いながら、この場所こそが自分の居場所、ここしかない的な諦めと嬉しさが混じっているような…。何か掴みどころのない登場人物たちの話なんですけど、どーして、こうもずっしり来ているのか…。
あの時、この母子に出会ってなければ、この泰子の人生はどうなっていたのかな?
「普通」を求めて「普通」を手に入れ幸せになれたのか?
「永遠っていう言葉なんて知らなかったよね~♪」というあの曲のフレーズが最後に私の中で湧き出したこの小説。
自分の人生にもそんな「もしあの時」を思い出してみたりもした。けど、結局はどうあろうと、今の自分を受け入れて生きて行くしかないんですけどね。
そして、普通のつもりでも普通でない部分が、自分にもたくさんあるのかもしれないと。
文庫本