待ってよ:蜂須賀 敬明著のレビューです。
感想・あらすじ 生まれてから死ぬまで時が逆さに流れる街とは
人が生まれるところはお母さんのお腹から。
誰もが疑うことない常識を一気に覆された世界がここにあった。
時間がさかさまに流れている町。一見、どこにでもあるタイムスリップ的な物語なのかと思いきや、何か様子が違う。
出産シーンと思しき風景は墓場で行われる。墓の深い穴に手を差し伸べて、生まれてくる者を引き出すシーンは「生まれる」という光景に近いものがあるけだが・・・。
ようやく出て来た赤子は老婆。赤子は老婆?この世界での生まれくるのは老人であり、年を取るということは、見た目がどんどん子供に帰ってゆくといういわば私たちの年の取り方と逆を行くという。
そう、こここは「生まれてから死ぬまで時が逆さに流れる街」なのだ。
そんな世界にマジシャンのベリーがこの街に招かれ、様々な奇妙な光景を目にし、違和感を持ちながらもここでの生活を選び、やがて受け入れていくようになるまでが綴られる。
この本を読んでいると、あれれ?と何度も立ち止まってしまう。大人の姿をしていても子供。子供の姿であるのに大人。一番そのギャップが激しいのは老人と赤ん坊。どちらも寝たきり、人の手を借りないと生きられない存在で似た部分も多いのだが、赤ん坊が寝ているのはもうすぐこの世を去る姿であり、老人はみるみる成長して若返る。
このあたりの頭の切り替えが意外にも難しいもので、すんなりストーリーに没頭できないギクシャク感が止まらないわけだが、「あーそういうことか」と、ピンとくる瞬間がたまらないって面白さもある。最終的には人間ドラマ的なものになってゆくけれど、そこまでの過程は混沌としていて奇妙極まりなかった。
この物語ではマジシャンは通常の年を取るという時間の流れを生きているわけだが、好きになった相手がどんどん若返り子供になっていく姿を目の当たりにする。このあたりがなんとも残酷で切ないのです。だって好きな人がどんどん小さくなってしまうんですもの。これを読んでいると若返りなんてちっとも嬉しくなくなっちゃうのね。
とにかくすべてが奇妙な世界で、思っている以上に読み終わってからもなんだかグズグズ引きずっていたなぁ。
ということで、ちょっと珍しい類の小説でした。めちゃくちゃお薦めしますとは言い難いけれども、異次元感が存分に味わえる内容だと思います。
タイトルは・・・もうちょっとなんとかならなかったのかな?
蜂須賀敬明(はちすか たかあき)プロフィール
1987年、神奈川県出身。早稲田大学卒業。2016年、『待ってよ』で第二三回松本清張賞を受賞。横浜の神々のバトルロワイヤル小説『横浜大戦争 (文春文庫)
』が話題となり、第4回神奈川本大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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