昭和恋々―あのころ、こんな暮らしがあった:山本夏彦・久世光彦著のレビューです。
なぜだか時たま胸がキュンとするのはなんだろう?
久世さんのエッセイが読みたくて借りて来た一冊です。
自分は昭和生まれと言っても昭和の後半部分しか知らないわけで、もっと前の昭和は親から聞いたものが大半。
しかしながら、母が育った昭和の家(祖母の家)は建て直す前の状態も知っており、その記憶もかなり鮮明に残っている。母があの場所で子供時代をどう過ごしていたのか、話を聞き出し、想像を巡らして来たわけだが、本書はその世界を再現してくれたような写真に多数出会った。
「虫干し」の写真なんかは、まさに聞いた話と同じ。縁側、障子のある部屋で作業する母親、それを後ろから見ている娘。あーきっと母にもこんな時代があったのだろうとクスリと笑ってしまう。
昔はこのように親の作業を興味深げに見ている子供の姿が多い。なんだろうなぁ、今もそうなんだろうけれども、もっと親子の距離が近いというか、親のすることを見ている時間がとても長かったのだろうと思う。
面白かったのは百貨店の食堂です。デパートはお洒落していく特別な場所と聞いてはいたけれども、写真で見るとその様子はまるで「披露宴会場」かと思ったほど。大勢の着物を着た婦人、テーブルには白いクロスがかかり、メイドさんは襟の白いメイドワンピース。カジュアルな雰囲気は微塵もないという。
コントかと思わずツッコミを入れたくなるパーマネントの器具を付けた女性!「メドゥサの蛇の髪」って!爆笑です。
そうかと思えば、嘘みたいに積み上げた蕎麦の出前写真。15-6枚+そばつゆの瓶を載せたお盆を肩に乗っけって自転車漕いでいるシーン。昔は道も整ってなかっただろうに。転んだりしなかったのだろうか?すごいバランス感覚です。
ということで、エッセイよりもどうも写真の方が楽しかったという印象です。自分が知らない時間のはずなのに、なぜだか時たま胸がキュンとするのは、あの祖母の家の記憶の断片から来るものなのかしら・・・。