雪だるまの雪子ちゃん:江國香織著のレビューです。
感想: 「私は雪だるまの雪子よ。あなたはだれ?わたしになにかする?」
このタイトルの可愛さに「おっ!」。装丁の色彩に「おっ!」。そして挿し絵は銅版画家の山本容子さん。「うん、読む!」と、装丁を眺めること数秒。私のことを瞬殺した本です。
美しい村の山のふもとに雪だるまの雪子ちゃんは一人で住んでいます。雪子ちゃんはみなさんの知っている普通の雪だるまじゃないのです。野生の雪だるまです。
好物は冷たいバター。雪子ちゃんがバターひとなめするシーンが何度も出て来るのですが、その姿かたまらない。たまらないったら、たまらない!
雪子ちゃんは本も読む(ふり)し、学校にも気が向けば行くし、お隣の百合子さん、雑貨屋のたるさんと、氷を浮かべた「たらい」に浸りながらポーカーだってします。
「ぼくの小鳥ちゃん」に出て来た小鳥ちゃんとちょっぴりキャラがかぶります。雪だるまなのに、人間と対等に会話する姿や振る舞いが似ています。ちょっと気取った感じの口調も微笑ましい。
が、やはり、野生の雪だるまということで、その生態が一体どんなものだろう?と、より読者の興味をそそるとも言えます。
夏の雪子ちゃんは何しているの?
後半は夏の話になります。雪だるまにとって暑さは大敵。雪子ちゃんは一体どうなってしまうのだろうとハラハラ気分にさせられたのですが、「冬眠」じゃなく「休眠」するのです。ただひたすら、冬が来るまで眠り続ける雪子ちゃんもめちゃくちゃ可愛い~。そっと近くにいって触れてみたいわぁ。
とにかく、あまりに雪子ちゃんが愛らしく何度も「可愛い」を連発した書評を書きそうになる。それを抑えて書くのに苦労しました(笑)
ひとつひとつ思い出すシーンを書こうと思うのですけど、最終的に出て来る言葉は「雪子ちゃん、可愛いなぁ…」となる。
でも、本当は可愛いだけじゃない。雪子ちゃんは、何でも出来るわけじゃないけど、一人でしっかり大地を踏みしめ生きているという一面も読者に伝えて来ます。
と、ごちゃごちゃ言っていますが…是非一度、雪子ちゃんに会ってみて!
きっと誰もが彼女のとりこになるはずです。
読み終わると…
休眠から目覚めた雪子ちゃんが、しんしんと降り注ぐ雪の中、遥か遠くからやって来そうな気配すら感じます。そして、深く深く雪の匂いを思い切り吸い込んでみたくなります。
「深遠な気持ちになるわね」という言葉が会話の中に出て来るのですが、この言葉自体が、この童話の世界という気がします。
また、周りの温かい人々にいつも見守られ、自然の中でのびのび過ごす雪子ちゃんの生活は、忙しい現代人にとって、羨ましい世界にも映ることでしょう。
本書のページには、ずーっと雪が降り続いているという凝ったデザイン。あちこちに散らばる雪の結晶がまた癒されます。
※私の大好きな1冊。冬になると雪子ちゃんのことを思い出します。