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【レビュー】去年の雪:江國香織

 

去年の雪:江國香織著のレビューです。

去年の雪

去年の雪

  • 作者:江國 香織
  • 発売日: 2020/02/28
  • メディア: 単行本
 

 

 いろんな人々の生活の断片を見ながら「今」感じたこと

 

(本が好き!の献本書評です。/スマートニュースの読書欄に掲載されました)

 

数十ページ文字を辿って行くと、本書が通常の小説とはちょっと違ったタイプであることに気づく。最初はバラバラでも、いつかはひとつの束になって話が見えて来ると思っていたのだけど、どうもそれとは違う。

 

いろんな人の、いろんな生活の断片が登場する。なんと100人以上の人々の様子が描かれているというじゃないですか。「こんなに大勢の人も名前も覚えられない!」って気持ちで一杯になったのだけれども、もう覚えておく必要もないんじゃないかと途中で開き直る(笑)そのくらい次々と場面が変わるのです。

 

今、見ていた人々の話をあれこれ考えながら読み進めていると、いつの間にかもう次の話へ移っている。次、次。それは大きな建物の部屋を、ひとつひとつ覗き回る作業のようだ。

 

それだけではない。時代までも自由に変化する。平安時代、江戸時代、まるで大きな魔法の絨毯に乗り、次々と時間軸を駆け巡るような不思議な気分にさせられるのです。

 

過去と現代が不思議な形で繋がっているような場面や、死者がそこらに漂っている場面なんかもある。うっとりするような文体を含め、このあたりは江國さんらしい物語だなぁと感じさせられるのだが、やはりそんな雰囲気に浸っていられるほどのんびりしてはいられない。物語は次々と現れては消えてゆく。

 

 

 

かなり断片的な話なので、通常の小説のようなずっしりとした読み応えがあったわけではない。けれども、コロナの感染が日に日に広がって行くという現状のなか、「明日は自分も家族も無事でいられるだろうか?」と、毎日考えるようになったからか、私にはこの本のいろんな人々の生活が、なんだかとても懐かしいものに感じたのです。

 

この懐かしさは一体なんだろう。それは今、私たちが一番取り戻したい「普通の生活」なんだと思った。安心して電車に乗れたり、人と自由に喋れたり、除菌に躍起になったりしない生活。数か月前まで当たり前にあった「普通の生活」の断片がこの本のなかにはあり、それが懐かしさとなったのかもしれません。

 

日常がどんなに平凡なものであったって、明日どうなるかもわからず、命の危険にさらされている現状より、ずっと幸せであることを、ささやかに暮らしている本のなかの人々の生活を通して再確認したのでした。

 

江國さんがこの作品に込めた思いとはかけ離れた感想になってしまったかもしれませんが、いろんな人のいろんな暮らしから、今だからこそ感じられたものがここにあった気がします。