旅ドロップ:江國香織著のレビューです。
タイトルのドロップという言葉がこの作品によく合っている
江國さんの旅ってどんなだろう?作品の影響からか、特定の場所というより、どこかに迷い込んでしまうような、たとえばこの作品のような場所へ行くのではないかと妄想してしまう。
しかし、そんなわけはなく、もちろん江國さんも私たちと同じように旅をしていました。(笑)短めなエッセイ集です。がっつり旅の本というより、旅にまつわる話がささやかに語られている。読み終わるとスーッと消えてしまうような感じで、タイトルのドロップという言葉がこの作品によく合っている。
東京に住んでいる方はご存知でしょうが、東京は西と東、結構長い。場所によってはちょっとした旅行気分で出かけることがある。「日帰り旅行の距離と時間」という話には、そんなちいさな旅について語られている。
日帰りの定義ってなんでしょうね。
あまり深く考えたこともなかったけれども、私も家からちょっと離れた都内の場所へ行くと、小旅行をした気分になれるので、江國さんのおっしゃることはよく解る。だってね、初めて乗る電車や町並みを見た時のちょっとした興奮は「旅」とよく似ていると思うのです。
「思い出の富士山」では、
お母様と妹さんと行ったプーケットの旅を綴ったもの。高齢のお母様が、象に乗ったり、馬に乗ったり、旅を満喫している微笑ましい話なのですが、オチがこれまた笑える話。富士山がタイトルで妙だなって思っていたのですが・・・。でもこのお話はちょっと切ないんだなぁ。切なくていい思い出話なのです。
「コーヒータイム」は、クスッと笑えるお菓子の話。
インドネシア製のビスケットが思わぬ方向へ。「コーヒージョイ」に思いを馳せた江國さんの話の行方がとても楽しい。
ということで、どこでも焦点を合わせれば旅になる。そんなことが感じられた一冊です。遠くに行く旅、近場の旅、そして家の中でもさえも、日常の延長線上に旅は潜んでいる。