人魚の嘆き・魔術師:谷崎潤一郎著のレビューです。
感想:読めば読むほどその多才っぷりを知り溺れてゆく私
谷崎潤一郎という作家は、本当にいろいろな顔を持つ作家だ。
こんなにも作風がガラリと変われるものか?というくらい、この2作品はこれまで私が読んで来たものとは異なり、「谷崎」と意識しなかったら、別の作家の読み物を読んでいるような気さえした。
またひとつ新たな谷崎文学に触れ、ただひたすら「おっちゃんってば・・・、おっちゃんってば・・・」と、ワナワナと震えてくるのである。
「人魚の嘆き」「魔術師」は、どちらも同じような空気感の作品です。幻想的で、妖しく、美しく、どこか夢の中の出来事のような無国籍感が。
ここでは「人魚の嘆き」を取り上げたいと思う。
舞台は南京、贅を尽くし、妾がたくさん居るにもかかわらず、退屈している貴公子が、
ある日、阿蘭陀人らしき異人から大金を叩いて人魚を購入する。
貴公子は人魚の美しさに魅せられ恋焦がれ、いつしか西洋への憧れが湧き立ち、自分も異人と共に西洋に行きたいと願い出るのだが・・・。
何よりも印象的なのは人魚。甕の中に居る人魚。
ガラス一枚の境界線を隔てて見えてくる姿が、なんとも妖しく艶めかしい。
水の中で喘ぐ人魚。
水の外で悶える人間。
一人は水の外に出られぬ運命を嘆き、
一人は水の中に這入れぬ不自由さを怨む。
やがて人魚は貴公子に自分の願いを申し出る。
二人の行方がどうなるのか気にしながら、どんどん幻想的なムードに包まれてゆく。
しかし人魚は人間とは愛し合えない定め。
最後に彼が見た人魚の姿とは・・・・。
夢から覚めたら、ちょっとゾワゾワした・・・。
そんな感覚が残る話でした。
おとぎ話のような世界もイケる!
本書の装丁は今までの中で一番素敵だな~と、思っていたのですが、挿絵もこれまた素晴らしく、艶めかしい美しさに酔いしれちゃいました。
文体も「春琴抄」で見せた美しさとは別の美しさがこの小説にはありました。
ということで、大人が読むちょっと残酷な童話みたいな本も、案外おっちゃんイケると思う!いや、私がまだ知らないだけで、こういう作風も多いのかな?
読めば読むほど新しい何かが生まれちゃうって感じでまったく困ってしまう。
まだなにかある・・・と、新しい谷崎を追い求めてしまいます。
さて、次回はいよいよ「細雪」に着手します。
※谷崎氏に親しみを込めて「おっちゃん」と呼ばせてもらっています。