救われてんじゃねえよ:上村裕香著のレビューです。

☞読書ポイント
感想・あらすじ
ヤングケアラーの話ということで、辛い感じなのかと覚悟していたのですが、かなり軽快に読める小説でした。介護の具体的なシーンもかなり出て来ることは出て来るんですけどね。読んでいて気になったのは主人公の沙智の父親。介護に無関心というか、身勝手というか。とにかくこの父親は家庭をほったらかし、アルコールやらパチンコもするもんだから余計に腹立たしい存在として際立つ。
家族は築50年の県営住宅、八畳一間で3人で暮らしているということからも、経済的に豊かでない。そこにきて母親が難病を抱え介護が必要な状態。そんな環境下にいる沙智は学校に通いながら健気に介護をしているわけだけど、そこに悲壮感はない。結構クスクス笑えるシーンがあったりも。
彼女の将来が介護生活に埋もれていってしまうのかとちょっと心配ではありましたが、しっかり自分のやりたいことを持っている。親から離れて就職をしたことに安堵。彼女は母の介護、自分のことをこんな風に思っている。

恐れ入ります。自身の介護経験をこんな風に捉えているなんて。なにかもう「ヤングケアラー」なんて言葉自体、陳腐なものに感じてしまう。介護も立派な経験なんだから、それをキャリアとして面接などで活かすこともありだと思うのだけど、彼女は違うのですね。すごいな~って本当に思う。
本作は過酷な介護のシーンも軽快な描き方になっている。介護という厳しい状況下、真剣な場面であるにもかかわらずクスッと笑ってしまう。これは経験しないと出合えないことなんだけど、そんな細やかな可笑しみみたいなものが、パンチを利かせて描かれている。あと、どんなにひどい親でも結局は家族は家族なんだってことを強く感じるものもありました。
若いときから介護しなきゃならないなんて気の毒、可哀そう。そんな世間からの同情や言葉を吹っ飛ばす勢いのある小説でした。「R-18文学賞」は、窪美澄さんをはじめ、女性たちのヒリヒリする痛い感情を描いた作品が多い。今回は「こういうヒリヒリもありかぁ~」と、ある種変化球が来た感じがしました。今後の上村さんの作品もかなり期待しちゃいます。
上村裕香プロフィール
2000年佐賀県佐賀市生まれ。京都芸術大学大学院在学中。「救われてんじゃねえよ」で第21回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞。(新潮社・著者プロフィールより)





